北海道大学 教育学部 学部案内
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14身体運動支援システム論  阿部 匡樹 例えば誰かと一緒に1つの机を運ぶ。この時、あなたとその相手は、お互いの力加減などの状況をみながら自分の力をコントロールしています。 このような他者との共同作業は、日常のさまざまな場面で起きています。その時に強く活動する脳の領域を、2台の磁気共鳴装置(MRI)を使って2人同時に調べるという、世界的にもあまり例のない実験を行いました。 すると、相手の心情を思いやる時と同じ領域で、脳の活動が活発になっていたのです。 中学時代、陸上競技の試合で、プレッシャーに負けて実力を発揮できない時期があり、心と体の関係に興味を持ちました。 北大に入学後、授業を受ける中で人間の心について学びたい気持ちが芽生え、ヒトを対象にした研究を行っていた教育学部に移行しました。 その後、運動そのものに関心が移り、身体運動科学ゼミで人の運動はどのように行われているのかを研究しました。 当時、東京で世界陸上が開催された際、科学班がカール・ルイスの走りを最新の技術で解析した結果が衝撃的で刺激を受けたのです。 北大で博士号を取得しつつ、国立リハビリテーションセンターの研究所に就職。 そこで重心動揺や筋活動を計測・解析する手法を学び、加齢や運動機能障害によって立つことや歩くことに困難がある方を支える研究に従事しました。学びのキーワード:運動制御、運動学習、認知科学   3年半ほど働いた後、歩行のような基本的な運動から、より高次な運動(狙ったところに正確に指先を動かす、モノを投げるなど)を扱う運動学習の研究を行いたいと思い、アメリカに渡りました。 運動学習の分野で知覚と運動の相互作用を研究するうちに、運動だけでなく心や思考への作用も含む認知科学の分野に興味を持ち、東京大学で認知科学に関係したプロジェクトの研究員になりました。 冒頭で紹介した他者との共同作業の研究は、経験してきた幅広い研究から生まれました。 気づけば、初めに興味を抱いた心と体の関係を解き明かそうとしています。運動とそれに関わる知覚情報を解明することは、感覚・運動障害、発達障害、高齢化社会、技能習得などさまざまな社会支援に役立ちます。 ただ、研究の出発点として大事にしているのはテーマの「面白さ」ですね。 クスッと笑えるけど、よく考えるとそれ重要だよね、という研究をすること。イグノーベル賞をとりたいと思っています(笑)。 仕事においても人生においても、人間を知るということは非常に重要です。教育学部で行われている人間に関する研究は、将来どの職場に行っても役に立つでしょう。学びを通じて、相手の立場に寄り添えるような人になってほしいと願っています。2人でボタンを押す力の合計を一定に保つ実験笑顔でいることは相手の表情の判断に影響するか?実験で解き明かす心の動きと体の動きの関係

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