北海道大学 医学部 保健学科 2022年度版
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Division of Medical TechnologyDivision of Physical TherapyDivision of Occupational Therapy1515 空中浮遊細菌には抗菌物質を産生するものがあり、それらの抗菌活性を検討することで新たな治療薬の開発につながることが期待されます。以前、本研究室では空中浮遊細菌をサンプリングし、Escherichia coliおよびStaphylococcus aureusに対して抗菌活性を示した62菌株について分離と同定を行いました。本研究ではその62株を用い、まず試験管内で抗菌活性を比較することで有力な候補菌株を選定し、次にそれをカイコでの動物実験で評価しました。有力な候補菌株として選定した3株は、菌株同定試験の結果Bacillus velezen-sisであり、既に様々な抗菌物質を産生することが知られていました。動物実験では、カイコの生存率と糞便検査によって抗菌活性が示唆されました。このようにカイコを利用することで、抗生物質などの薬効を効率よく確認できることが明らかとなりました。今後は、カイコの個体数を増やし再現性の確認や、候補菌株のサンプリング数を増やすことでより有力な候補菌株の探索をしていく必要があると考えられます。 頚椎疾患や手術療法によって生じる頭頚部運動の制限は日常生活動作に制限をもたらすため、頭頚部運動の評価は重要です。標準的な動作解析手法である光学式三次元動作解析装置を使用した頭頚部運動の評価は多く報告されていますが、この手法では正確な測定が行える反面、高価な設備が整った研究施設での評価にとどまるため広く臨床応用することには限界があります。近年、空間的な制約を受けない慣性センサを用いた新たな動作解析手法が注目されており、臨床応用が期待されていますが、この手法による頭頚部運動評価方法は確立されていません。そこで本研究では、慣性センサによる頭頚部運動評価装置による頭頚部運動評価の妥当性を明らかにすることを目的としました。健常成人を対象に、慣性センサを用いた動作解析装置(図)と光学式三次元動作解析装置 を用いて、頭頚部の自動運動中の角度を計測し、両測定間の相関関係と差について検討しました。その結果、2つの解析装置にて得られた値には有意な正の強い相関関係が認められました。屈曲および伸展運動の角度は慣性センサで大きくなる傾向があり、側屈運動の角度については小さくなる傾向を認めたものの、二測定間では概ね一致性が認められました。本研究結果より慣性センサを用いた頭頚部運動評価は有用と考えられ、今後の臨床応用が期待されます。なお、本研究は北海道大学病院と大学院工学研究院との共同研究によって行われました。ご協力いただいた先生方にこの場を借りて御礼申し上げます。 DNAダメージなどによって引き起こされる細胞老化は、細胞分裂を不可逆的に停止することで異常な増殖を防ぐがん抑制機構の一つとして知られる。老化細胞はSenescence as-sociated secretory phenotype(SASP、細胞老化随伴分泌現象)を起こして炎症性サイトカインやケモカインなどを分泌するとマクロファージなどの貪食細胞を動員し、最終的に老化細胞はクリアランスされる。しかし、老化細胞が長期的に生体内に生存し蓄積すると周辺組織に慢性炎症を引き起こし、がん、動脈硬化、アルツハイマー病などのさまざまな加齢性疾患を発症することが報告されている。そのため近年、老化細胞の選択的細胞死を誘導する活性を持つ薬剤(セノリティック薬)の研究が多く行われている。タンパク質の構成要素であるアミノ酸は、細胞種により生存に必要なアミノ酸が異なることが知られ、例えばバリン欠損食により骨髄造血幹細胞の選択的な死を誘導することで放射線療法を必要とせずに、白血病患者などに対する骨髄移植の改善に役立つ可能性が報告されている。老化細胞においてもアミノ酸が老化細胞の生存や蓄積に影響することが推測されたことから、本研究では老化細胞に対するアミノ酸の影響を検討した。DMEM培地に含有されるアミノ酸を対象とし、in vitroで各種アミノ酸を欠乏させた時の老化細胞に対する細胞毒性を解析した。結果、老化細胞はコントロール細胞と比較して、特定のアミノ酸の欠如で細胞死が誘導された。本研究の成果により、アミノ酸欠損食の開発など老化細胞を除去できる食事療法への発展性が期待される。カイコ糞便を用いた空中浮遊細菌の抗菌活性の評価結果についてSa、黄色ブドウ球菌。TSB、培地名。縦軸、マッコンキー培地上に発育した黄色ブドウ球菌によるマンニット分解能。*、p<0.05図 慣性センサを用いた頭頚部運動評価装置図 各種アミノ酸を欠乏させた時の正常細胞(赤)老化細胞(青)に対する細胞毒性(Cytotoxicity)。乳酸脱水素酵素(LDH)活性によって細胞毒性を計測した。石田 航太郎舘ヶ澤 翔畠山 紗衣検査技術科学専攻理学療法学専攻作業療法学専攻動物モデルとしてカイコを用いた空中浮遊細菌由来物質の抗菌活性の検討慣性センサによる頭頚部キネマティクス評価の妥当性検証選択的な老化細胞死を誘導するアミノ酸の探求

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