北海道大学 文学部 2024
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TAKEUCHI Yasuhiro東京大学文学部卒業東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了東京大学文学部助手一橋大学教養部専任講師同助教授1995年2000年欧米文学研究室 文学とは何なのでしょうか。子供の頃から本を読むのが好きならば、あらためてその意味を問うまでもなく、文学は大切なものでしょう。そうでない人たちが文学と聞いて真っ先に思い浮かべるのは、国語の授業かもしれません。恥ずかしながら私自身も、国語の教科書のおかげで宮沢賢治の「永訣の朝」や夏目漱石の『こころ』に初めて触れることが出来ました。どちらも気持ちを揺さぶられながら読みましたが、国語は教科なのでそれだけでは済まされません。テストがあります。そして、多くの人と同じように私も不満に思っていました――国語には決まった答えがないじゃないか! それは国語が苦手な人の負け惜しみのようにも聞こえます。けれど、今思えば案外その不満は文学の本質を突いているような気もします。少なくとも文学の研究とは、そもそも答えが出ない問題について考え続けることのようにも思うのです。 宮沢賢治も夏目漱石も、解決が不可能な問題に取り憑かれていたのではないでしょうか。「永訣の朝」は、賢治の妹が亡くなった直後に書かれた詩ですが、そもそも人の死に解決策はありません。人は必ず死にます。これから先どんなに理想的な社会が建設されようとも、そこでどれほど人が幸福に生きようとも、死の問題は残り続け、人は苦悩するでしょう。『こころ』では親友に対する主人公の罪の意識が描かれますが、罪もまた(法的には償えても)本質的には解決できないのではないでしょうか。罪によって失われたものと償いによって返済されたものは、実は別のものなのですから。よく考えてみて下さい。略歴1990年1993年アメリカの小説家エドガー・アラン・ポーの草稿調査を行ったニューヨーク公共図書館とその外観。37北大文学部の教員は学生をいざなう教育者であると同時に、各自が関心を持つ研究テーマに取り組む研究者でもあります。学部移行とともに専門研究のスタートラインに立つ皆さんに向けて、4人の教員が専門研究の魅力を紹介いたします。19世紀以降から現代までのアメリカ文学を研究しています。最近は、作品中の未解決殺人事件や奇妙な自殺に注目して、マーク・トウェインの『ハックルベリー・フィンの冒険』、J.D.サリンジャーの『ナイン・ストーリーズ』などを読み解き、日本語と英語で研究成果を発表するよう努めています。2003年2008年2014年2019年奈良女子大学大学院人間文化研究科助教授北海道大学大学院助教授 同准教授を経て、同教授改組により北海道大学大学院文学研究院教授(現在に至る) なんだか授業のようになってしまいましたが、このような問題への関心が私の研究の根底にあります。私が専門にしているアメリカ文学の作家も――『トム・ソーヤの冒険』のマーク・トウェインも、『グレート・ギャツビー』のスコット・フィッツジェラルドも、『ライ麦畑でつかまえて』のJ.D.サリンジャーも――それぞれにとって根源的な問題に執着し続けています。それはおそらく、答えがないからといってそこから目を背けていては、誠実に生きることは不可能だからではないでしょうか。著書MarkX が批評部門の候補となったエドガー賞の晩餐会で竹内先生の研究テーマは何ですか?竹内 康浩教授マーク・トウェインたち米文学作家が執着した正解のない問いかけから目を背けずに生きていく。〜専門研究の魅力を知る〜■■■■■■

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