北海道大学 文学部 2024
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HISAI Atsuyo酪農学園大学環境システム学部生命環境学科卒業北海道大学大学院文学研究科修士課程修了北海道大学大学院文学研究科博士後期課程修了 公益財団法人日本生態系協会専門研究員特定非営利活動法人EnVision環境保全事務所研究員日本学術振興会特別研究員PD 北海学園大学北海道大学大学院文学研究院准教授(現在に至る)38博物館学研究室 皆さんは、野生動物の「歴史」について考えたことはありますか?札幌では近年、ヒグマやエゾシカなどの野生動物の話題に触れる機会が増えていますが、たとえば江戸時代の北海道では、彼らはどこで、どのように生きてきたのでしょうか。動物自身はその記録を残すことはできませんが、過去の動物の姿を知るための手がかりは、様々な歴史資料のなかに残されています。 私は鳥類のツルを専門に研究を行っています。ツルといえば、北海道では道東を中心に生息するタンチョウが有名ですが、実はタンチョウは、明治時代頃までは札幌にも生息していました。「昔はこんな場所にもタンチョウがいたのか!」そんな驚きがこの研究を始めるきっかけでした。野生動物に関する歴史を解明するためには、古文書や絵画資料など、あらゆる歴史資料から動物に関する記録を探し求める必要があります。同時に重要になるのが、野生動物そのものについての知識や観察経験です。生き物としての野生動物の生態や行動を知らなければ、資料上の動物の記録を正しく読み解くことができないからです。過去の記録と現在の知識を素材として、分布や生態、行動など「野生動物自身の過去の実態」と、狩猟や保護、人との軋轢、食文化など「動物と人との関わり」の二つの側面から、野生動物に関する歴史を紐解いていきます。 ツルを例にとると、江戸時代の日本列島には全国各地にツルが生息していたことや、オオタカやハヤブサなどの猛禽類を使ったツルの狩猟(鷹狩)が行われていたこと、ツルを塩漬けにした「塩鶴」が珍重され、ツル料理は最上級のおもてなしだったことなど、現代では考えられないよう略歴2009年2011年2016年2016年2018年2019年2020年鳥類学を軸に関連する諸分野をつなぎ、様々な資料から鳥類をめぐる歴史を探る研究を「歴史鳥類学」と位置づけて、研究に取り組んでいます。江戸時代のツルが専門ですが、近代日本の動物園における動物管理の歴史や、アイヌ民族と動物との関わりなどにも関心を向けています。初めて野生のタンチョウを見たとき、文字や絵で表現された「鶴」の姿とはまた違う、生き物としての存在感に改めて魅了されました。自然と集まってくるツルグッズ。着用のジャケットもツルの刺繍入り!な興味深い事実が次々と明らかになります。このように明らかにした研究成果は、現代社会におけるツルと人との関わりの問題を考えるうえでも、有効に活用されています。 野生動物の研究は理系分野のものと思われがちですが、決してそんなことはありません。「文系だけど動物に関わる研究がしたい」、「文系・理系の枠を超えた研究がしたい」という皆さん。皆さんの豊かな発想と熱意で、野生動物に関する歴史を解き明かしてみませんか。久井先生の研究テーマは何ですか?久井 貴世准教授かつてどのように生息し、人とどう関わってきたか文理融合の視点で明らかにする野生動物の「歴史」。

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