北海道大学 文学部 2024
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UMEMURA Naoki東京大学文学部卒業同大学院人文社会系研究科修士課程修了同大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学同大学院人文社会研究科教務補佐員東洋史学研究室 現代日本は「学歴社会」であると言われますが、それはいったいどういう社会なのでしょうか。少なくとも中国・韓国にもよく似た特徴の社会があり、その源流をたずねると中国の科挙制度に行き当たります。 科挙制度の根幹はペーパーテストなので、受験者は儒教の経典を暗記し、詩を含めた高度な文章作成能力が求められました。何段階にもおよぶ厳しい試験を突破した先には官僚への道が開かれ、優秀な成績で合格した場合には、将来的に大臣や宰相となって国家を動かす可能性すら与えられたのです。そうなると当然、多くの人々が合格を目指すため、その競争は熾烈を極めます。 科挙に合格し、華々しい活躍をした人は歴史上に多く存在します。しかし一方で、当時の社会を考えるときに重要なのは、合格にまで至らなかった無数の人たちの存在です。幼い頃から科挙合格を目指して難しい古典の勉強を重ね、成人する頃には三年に一回行われる科挙試験を受けるのですが、二、三回の挑戦で合格できれば運のいい方で、中年や老人になっても合格できず、受験勉強と試験を繰り返す人も多くいました。 そうした人々は、なぜそこまでのリスクを背負って科挙受験に挑み続けるのか。それを可能にした金銭的余裕はどのようにして生み出されていたのか。あるいはそうした無数の不合格者は社会的にどのような意味があったのか。彼らによって作られる社会とはどのようなものだったのか。社会の価値観はどう変わったのか。―こうした問いが自然とわき上がってくるのです。略歴2005年2007年2014年2014年左は科挙の合格者名簿。朱熹の名が見える。右は北京国子監の石経で、これをもとに儒教の経典を印刷した。39専門は中国宋代の社会史・思想史。科挙や、学校で行われる儀礼祭祀を手がかりに、士大夫社会を研究しています。制度だけでなく思想の面からも分析する点に特徴があり、朱子学を始めとする思想の展開が、社会とどう関わっていたのかに関心があります。2015年2019年2020年博士(文学)取得日本学術振興会特別研究員(PD)北海道大学大学院文学研究院准教授(現在に至る) 歴史学は過去の人々の営みを描き出す学問です。過去の人が書いた文章を繰り返し丹念に読むことで、書き手のことや当時の様子が、徐々にリアリティーをともなって感じられるようになるのです。過去の人々の目を通して社会を見つめた時、そこに現れる世界に共感を覚えることもあるでしょうし、新鮮な驚きを覚えることもあるでしょう。過去の人との出会いを通じて何を感じ取るのか、それは皆さんに委ねられた無限の可能性と言えるかもしれません。儒教経典の一つである『周礼』とその注釈を読む研究会。梅村先生の研究テーマは何ですか?梅村 尚樹 准教授受験競争がもたらしたものとは?学歴社会の原点を考える ―中国近世の社会と思想―

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