北海道大学 文学部 2024
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KANEKO Sae東京大学教養学部卒業東京大学大学院総合文化研究科 博士課程修了(学術(博士))日本学術振興会海外特別研究員(カリフォルニア大学サンディエゴ校)日本学術振興会特別研究員(SPD)(東北大学電気通信研究所)東北大学学際科学フロンティア研究所 助教北海道大学大学院文学研究院 准教授(現在に至る)40心理学研究室 私の専門は知覚心理学で、特にヒトの視覚について研究をしています。心理学とは高校までの勉強ではまず接することのない学問で、また一般的に持たれているイメージとはかけ離れた学問であるようにも感じています。知覚心理学はその中でも特に「心理学らしくない」と思われる分野かもしれません。  知覚心理学とは視覚や聴覚などの感覚(=光が目に入り神経が応答する)とそれによる知覚(=「赤い」という感じ)がどのような仕組みで生じるのかを考える学問です。光の量や波長成分は測定することができますが、光を見ている人がその光をどれだけ「赤い」と感じているかは外から測定できない「こころ」の領域に属します。私の研究室では、明るさ・色・形・運動などに関する錯覚に特に関心を持って、同じ紙でも白っぽく見えたり黒っぽく見えたりする理由や、見ている時間の長さによって線の傾きが変わって見える理由などについて、様々な視覚刺激(画像や動画)を作成し実験を繰り返しています。 知覚心理学は立派な心理学であり文系学問ではあるのですが、一方で実験的アプローチを基本とします。人間の感覚の仕組みを神経細胞・脳をハードウェアとした情報処理システムとして扱う都合上、しばしば「畳み込み積分」や「ナイキスト周波数」といった工学的概念も扱います。また、当然ながら脳や神経細胞に関する知識も必要になります。つまり、この分野はいわゆる「文系」と「理系」の間にある学際的なフィールドであるとも言えます。 とはいえ知覚心理学は決して敷居の高い学問ではありません。むしろ略歴2007年2013年2013年2015年2018年2021年人間がどのようにして世界を見ているのか、視覚の中でも最も基本的な要素である明るさ・色・形・運動などの脳内での情報処理のあり方に関心を持って研究をしています。研究のツールとして錯覚を利用することも多いです。日常的な生活と密接に関わった最も身近な学問であると私は考えています。なぜならば、私たちの研究の根本にあるのは現象観察、つまり自分で見て、試して、確かめてみることだからです。自分自身を被験者としていつでも実験することができる、この楽しさ・自由さは他の研究分野にはない強みだと思います。ふと気づいた不思議な見え方や新しく見つかった面白い錯覚を自分で実験に落とし込んで確かめることができる、この面白さを多くの人に知ってもらいたいです。実験用の簡易防音室にて今では貴重なCRTディスプレイと。見ているものに対応する脳活動を測定したり、画像の色や輝度を測定したり、測定は研究の要です。金子先生の研究テーマは何ですか?金子 沙永 准教授知覚の不思議を観察・実験で掘り下げる。文系と理系の間に位置する知覚心理学の面白さ。

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