食・農・環境の問題を通して社会や経済の本質を抉■る▶設問1 先生の研究について教えてくれませんか? ▶設問2 先生が大学生のころ、研究者になりたいと思ったきっかけを教えてください ▶設問3 先生にとって茨城大学農学部って? ■ 伊丹一浩 教授 農業や環境の歴史について研究しています。高校の授業でいえば、地理、日本史、世界史、政治経済などを総合したものがイメージとして近いと思います。社会の中で発生している農業や環境の問題の解決には自然科学の知識や技術だけではなく、経済や法制度など社会科学に関わる知識や理解も求められています。そこで、農業と経済との関係や環境と法制度との関係などについて、歴史的な変化を踏まえて研究をしています。主に近代から現代まで(19世紀から21世紀初頭まで)のフランスについて、特に南部山岳地を対象にしています。具体的には、荒廃山岳地の植林事業、製酪組合(チーズ製造組合)に関する政策、20世紀以降の経済の動向と農業の変化との関係などを分析しています。日本との比較も念頭に経済や社会のあり方の基礎的学理的探究に繋がる研究をしています。 もともと知的生産活動に関心があり、その中でも、どちらかというと感性的なものというよりも、分析的な営為への志向が強く、そうしたことから研究的な活動を始めていました。時間と労力を削り取るばかりの意味なき競争や制度にうまく適応できず、そこから現代の経済や社会に生きづらさや生き生きとした生の実現しがたさを感じていました。そうした経済や社会のあり方を変えていきたいと思い、そのための基礎的な作業として、それを生み出してきた形成過程を遡り、問題の構造とポイントを把握することが必要であると考えていました。とはいえ、今、振り返ってみて、この様に整理できるだけで、実際には、当時、それほど明確に意識できていたわけではありません。ただ、半ば無意識的に、そのように直観していたとは思います。 茨城大学農学部に限ることではないのですが、大学であれば専門の勉強をすることは言うまでもありません。それに付け加えるとすれば、大学の内外で種々の事物に触れることが大事です。できるだけ上質のものに、例えば、他分野も含めた知的生産活動の精華、あるいは学問に限らず、広く人間活動に由来する文化、芸術、スポーツ、もしくは身近なところから他地域に至るまでの種々様々な自然や風景など、こうしたものに親しんだり触れるのが大切です。特に、他を賦活するような事物に広く親しむのが良いでしょう。今後は、社会に役立つというよりも、他を掣肘するのではなく躍動させるような素養や行動が必要とされるようになります。そのためにも、単に競争に勝つとか、そんなものではなく、他とのコンヴィヴィアリテ(共歓)を体現する上質なものに多く触れるのが良いと思います。10
元のページ ../index.html#13