応用生物化学科山准教授伊教授下教授ひろゆききよし 「春にタネ(種子)を播き、盛夏に大きく育て、秋に収穫」するのが、イネの通常の栽培暦です。熱帯原産のイネは日本の冬の寒さに耐えることができないためです。ところが私たちは、雪が降る前の初冬に種子を播く常識破りの栽培法、「初冬直播き栽培」に2008年から挑戦しています。 現在、日本の農業従事者の高齢化や担い手不足に伴い、耕作されない田んぼが増え続け、主食であるコメの安定供給や食料安全保障を脅かしています。日本のイネの主要な産地は北海道、東北、北陸地方の積雪地帯にあり、これら地域では暖地に比べて春の訪れが遅く、雪解け後の短い春に播種や移植の作業を終える必要があります。その上、これから増えるリタイアした方の農地を含めて耕作することには時間的にも作業量的にも限界があります。そこで考案したのが、過度に集中する春の農作業を軽減させる「初冬直播き栽培」です。 私たちは種子の越冬率の飛躍的向上を目指し、種子のコーティング法から田んぼの耕し方まであらゆる角度から研究を進め、世界でも類をみない「初冬直播き栽培」を実用レベルにまで近づけることに成功しました。研究の環は農家にも広がり、実際に経営に取り入れ始めた農業法人も現れています。 岩手大学発の「初冬直播き栽培」という革新技術で、農業の現場での課題解決への貢献を通じ、SDGsに代表される持続可能な社会の実現に向け研究室一丸で挑戦し続けています。この研究課題以外にも、研究室では、エチオピア、バングラデシュ、フィリピン、オーストラリアなどの研究機関と共同で持続可能な農業という視点からグローバルに研究を進めています。熱帯原産のイネを初冬にタネ播く新技術植物生命科学科植物生命科学科作物学研究室しもの野裕 超高齢社会の日本において、加齢に伴って増える生活習慣病や筋力の衰えなどによる活動力の低下は健康上の大きな関心事となっています。これらの健康リスクは、食事との関係は高いことから、医療的アプローチで対処するだけでなく、食事や食品成分の利用による予防や改善は問題の解決に有効な手段の一つとなります。 私の研究室では、上記のような疾病に対する食品や栄養成分による予防・軽減効果を実験動物や培養細胞を使って研究しています。糖尿病は、インスリン作用が不足して血糖値が恒常的に高くなる疾患です。その背景の一つに生体酸化ストレスの増加があります。わさび、クレソンやブロッコリーなどはアブラナ科の植物ですが、これらには生体の抗酸化性を高める効果のある成分が含まれており、これを酸化ストレスによりインスリン抵抗性を生じさせた脂肪細胞に作用させると抗酸化性が誘導されインスリン作用が改善することが分かりました。また、こうした成分は糖尿病動物の病態も改善することを見出しています。また、興味深いことにこれらの化合物を細胞に作用させると、インスリンの作用伝達に重要な細胞内因子の活性化を誘導できることから、これらの性質を持つ食品素材の利用による糖代謝不良改善への応用につながることが期待できます。 また、アミノ酸を用いた骨格筋の機能維持に関する研究も行っています。さらに、一部のアミノ酸はタンパク質の構成成分としての側面だけでなく、糖や脂質などのエネルギー代謝に影響することも明らかになってきており、栄養成分間の相互作用に関わる研究アプローチから生活習慣病への有効性研究も行っています。栄養や食品成分の健康機能性のメカニズムを探る岩手大学の中で、最先端の農学研究が行われています。私たちはその成果を、岩手から世界へ発信していきます。藤芳之明義6応用生物化学科栄養化学研究室よしあきいとう これまで私は、ツキノワグマやニホンジカの生息状況を把握するためのモニタリング手法の開発を研究してきました。特にクマは直接観察が難しく、生息数を把握する決定的な手法はありません。ニホンジカは群れを作り、数も多いので、調査手法は多くありますが、低密度地域では観察が難しく、確たる手法はありません。新しい技術を取り入れながらクマ・シカの生息動向を把握する手法を開発することが、喫緊の課題となっています。この様な野生動物との共存を目指す学問として「野生動物管理学(Wildlife Management)」が欧米で確立され、日本でも導入され始めています。これには生態学や行動学の知識ばかりではなく、森林科学や保全生物学の知識も必要になります。また実際の動物を扱うことから獣医学的な技術や遺伝学的な実験手法も求められます。さらに人間社会の構造変化が動物の生態に影響を及ぼす可能性もあることから、政治・経済・法律の知識も含めた社会科学的アプローチも必要となります。大型野生動物の研究はフィールドワークによる長期間のデータ蓄積が必要です。フィールドでは雨に打たれたり、急斜面を登ったり、藪こぎをしたりと肉体的な苦労が絶えませんが、実際に苦労して山を踏査していると、「ここは最近クマが多く出没しているに違いない」とか「シカが増えるに違いない!」と感じる時があります。如何にこの感覚をデータ化して証明していくかが重要であり、またフィールドワークの醍醐味でもあると思っています。クマもシカもまだまだ未解明な生態現象がたくさんあります。フィールドワークを通じて少しでも彼らの生態を明らかにして共存していく方策を、今後も研究していきたいと思います。日本での野生動物管理学の確立~野生動物との共生を目指して~森林科学科森林科学科野生動物管理学研究室やまうち内貴注目の研究
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