岩手大学 理工学部
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伊い藤とう 歩あゆみ 教授24| 高校生のための研究紹介 | 当コースは、建設・環境・防災の3つを柱に、環境分野では水環境工学、大気環境工学、地盤環境工学、資源循環工学などを総合的に学べるコースです。その中で私は水環境工学分野を担当。私たちが使用した後の汚水の処理から生じる汚泥の再資源化技術の開発などに取り組んでいます。汚水は処理場で浄化され水と汚泥に分けられますが、この汚泥には有機物やリンなどの有用物質が含まれており、エネルギー源や肥料原料として利用できます。なかでもリンは我が国ではほぼ全量を輸入に頼っており、今後その確保がむずかしくなることが予想され、近年、汚泥からのリンの効率的な回収及び再資源化は国としての課題にもなっています。そこで注目したのが、リンを特異的に蓄積したり放出したりする機能を持つ汚水処理微生物・ポリリン酸蓄積細菌です。酸素がない状態に置かれると一度リンを放出、再度酸素を与えることで通常よりも多くのリンを取り込むこの細菌の特性を生かし、既存の汚泥処理施設を活用したリン回収のシステムの構築を研究しています。リンの回収には、汚泥を焼却した灰から抽出する方法もありますが、その設備には多額のコストがかかります。そこで私が進めているのが、既存の汚泥処理施設の利用です。盛岡市内にある都南浄化センターにおいて、リンを蓄積した微生物(活性汚泥)からのリン回収の実験を行っています。研究室では有用物質の再資源化のほか、抗菌性物質の排出抑制、土壌・地下水のヒ素汚染対策などについても研究していますこのポリリン酸蓄積細菌は、リンだけなくカリウムやマグネシウムも一緒に放出することがわかっています。これらもリンと一緒に肥料として有効利用できれば理想的です。しかし肥料として十分な濃度を得るためには、電気透析というイオン濃縮技術が必要になります。そこで、汚泥中の有機物を活用した微生物燃料電池と電気透析を組み合わせることで、エネルギー投入が不要な濃縮技術を開発できればと考えています。これが実現すれば、全国に何千ヵ所とある汚水処理場が、地域のエネルギー・リン資源の供給ステーションになりうるかもしれないのです。環境技術は、物理学・化学・生物学の知見を基礎とした融合技術です。最新の材料や技術を組み合わせ、問題解決できそうだとひらめいた時の楽しさやうれしさが、研究を進めていく上での原動力。将来、皆さんの中の誰かとアイデアを出し合って、新しい環境技術を創出できることを願っています。Profile1971年生まれ、宮城県出身。岩手大学大学院工学研究科博士後期課程生産開発工学専攻修了。専門は、汚水処理から生じる汚泥の再資源化技術の開発。「大学入学を機に岩手にやってきて、先生に恵まれ、気づいたら岩手暮らしも30年になろうとしています」。休みの日には、2人の息子さんと遊ぶことが多いという子煩悩パパ。有害物質を含む土壌採取の様子。持ち帰ったサンプルを大学設備で分析しますシステム創成工学科 社会基盤・環境コース地域創生専攻 地域・コミュニティデザインコース汚水処理汚泥を資源に変換!汚水処理汚泥を資源に変換!全国の汚水処理施設を資源供給ステーションに全国の汚水処理施設を資源供給ステーションに

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