岩手大学 GUIDE BOOK 2026
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IWATE UNIVERSITY 2026農学部 教員研究紹介Introduction to Research46熱帯原産のイネを初冬にタネ播く新技術根粒の秘密に迫る!植物と微生物の共生メカニズムコミュニティ形成を基盤としたエコロジカルな地域づくりを目指して栄養や食品成分の健康機能性のメカニズムを探る糖化ストレスに対するミトコンドリアの防御機構の解明新しい技術を利用した安全で効率的な林業を目指して作物学 イネの栽培は「春にタネ(種子)を矯き、盛夏に大きく育て、秋に収穫」するのが通常。イネは熱帯原産で、日本の冬の寒さに耐えることができないためです。しかし私たちは、雪が降る前の初冬に種子を播くことで、過度に集中する春の農作業を軽減させる常識破りの栽培法「初冬直播き栽培」に2008年から挑戦、実用レベルにまで近づけることに成功しました。この岩手大学発の革新技術によって、農業の現場での課題解決に貢献するとともに、SDGsに代表される持続可能な社会の実現に向け、研究室一丸で挑戦し続けています。植物-微生物相互作用学 DNAやクロロフィルの構成成分として、植物の生育に不可欠な窒素。しかし空気中の約78%を占める窒素分子(N2)を、植物が直接利用することはできません。ところがマメ科植物は根粒菌との共生によって根粒(コブ状の器官)を形成し、この窒素分子を窒素化合物(NH3)に固定して活用しています。この「根粒共生」は、マメ科植物と根粒菌の綿密な相互作用によって成立しますが、その分子機構は未解明な部分が多く残されています。私たちはこの共生メカニズムの解明に向け、植物と根粒菌の双方に注目して研究を進めています。都市・地域計画まちづくり 私たちの生活に深刻な影響を及ぼしつつある、地球温暖化などの気候変動の問題や、汚染と破壊が進む自然環境の問題。この問題に対処するため、持続可能な地域づくりが求められていますが、その実現には市民、企業、行政など多様な主体による地域像の共有と共感の醸成、そして経済のみが優先されない新しい価値観やライフスタイルへの移行が必要不可欠です。私たちは「コミュニティデザイン」を通して人々の価値観や行動の変容を促すことで、地域の自然や土地、エコロジーに根付いた地域づくりを実現するための研究をしています。コミュニティデザイン栄養化学 肥満や糖尿病などの生活習慣病は健康上の大きな関心事です。この研究室では、食品や栄養成分による疾病の予防・軽減効果を、実験動物や培養細胞を使って研究しています。例えば、糖尿病の背景には酸化ストレスの増加がありますが、クレソンやブロッコリーなどには含まれる抗酸化能上昇作用のある成分を与えると、インスリン抵抗状態にある脂肪細胞のインスリン応答の改善が見られました。こうした食品成分による生理調節効果の作用機序の解明から、健康維持に向けた食品や栄養成分の高度利用に繋げたいと考えています。細胞生化学 認知症や網膜疾患、皮膚の老化などの原因の一つとされる糖化ストレス。その主な原因である「反応性ジカルボニル」は、エネルギー産生過程の副産物として生成され、タンパク質などを変性させることが知られています。本研究室では、ミトコンドリアに存在する酵素ES1が、反応性ジカルボニルを無害なグリコール酸に代謝することで、ミトコンドリアを糖化ストレスから保護していることを解明しました。現在は、糖化ストレスに対するミトコンドリアの防御機構の全容解明と、糖化ストレス関連病態の予防薬開発に取り組んでいます。森林工学 豊富な森林資源の活用に欠かせない「木材の伐採」。しかし国内の林業は基盤整備の遅れや作業環境などに多くの課題があります。これらの問題を解決するため、地域の方々と協力しながら、これまで培われた林業技術者の技能と情報化技術を融合し、高解像度情報やGISを用いた路網計画手法の開発、CTLシステムの検証、効果的な安全対策などに関する研究に取り組んでいます。これらの活動を通じて、安全で持続可能な林業の実現を目指し、国内の林業をより発展させ、地域経済や環境保全にも貢献することを目標としています。食料農学科農学コース教授 下野 裕之生命科学科分子生物機能学コース准教授 川原田 泰之地域環境科学科革新農業コース准教授 杉田 早苗食料農学科食品健康科学コース教授 伊藤 芳明生命科学科分子生命医科学コース准教授 尾﨑 拓地域環境科学科森林科学コース教授 齋藤 仁志

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