東京海洋大学 2020 統合報告書
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きいと思います。現在副学長をされている庄司るり先生が女性の3期生にあたり、それからどんどん女性が増えましたが、女性が増えたおかげなのか、また90年代に品川の港南エリアが開発され、おしゃれになったからなのか、キャンパス内の学生の雰囲気が都会的になりました。昔の男子学生なんかは寮からどてらを着てスリッパや下駄でぺたぺたと授業に向かっていたものです。変わらない点としては、学生の気質でしょうか。「海が好きだ」とか「魚が好きだ」、「どうしても船に乗りたい」、そういった気持ちの部分は50年間ずっと一緒だと思います。さかなクンがたくさんいるみたいなものだよね。大学に入ってからその気持ちが変わって別の方向に進んでいく場合もあるし、そのまま継続する場合ももちろんあります。▶ その学生の気持ちにあった教育ができるのが本学の強みの一つともいえるのでしょうか。そうですね。学生の夢をかなえてあげられる。魚釣りの教育はしないけど、釣りの三要素なんて真面目な顔をして先生方が教えてくれて。釣りの三要素は君たちわかるかね、とか言って。なんだと思う? 竿と糸と餌。その3つ。針でもいいけど。その3つがないと釣りができない。真面目に釣りの三要素。それを漁業科の講義でやったの。本当に実用的だよね。▶ 海洋大の社会における役割としては、何か変わった点はありますでしょうか。私が詳しく知っているのは品川キャンパス(旧東京水産大学)ですが、戦後特に大きく力を持っていたのは漁業・製造・増殖と3つの学科の中で、漁業科でした。戦後すぐなど、多くの魚をいかに効率よく獲るかというのが重要な時代がありました。食品(生産科学科)は、当時は製造といいましたが、食に一番近いところではあるので、安定していて大きな波はありませんでした。一番大きく変わったのは増殖(増養殖)分野だと思います。昔はサケの放流に代表されるように、稚魚を育てて放流するという方法が基本的だったところ、最近10年20年は養殖場を囲い、逃がさないで育て上げ、それを売るということが一般的になりました。餌の開発や網生け簀などは日本で始まり、世界に広まっていきました。越中島キャンパス(旧東京商船大学)のほうでは、最近フィリピンなどのアジア系の外国船員がどんどん入ってくるようになって、船長・機関長などの、いわゆる高級船員を残してみんな安く雇える外国人船員にしてしまう。本学の乗船実習科を修了して就職した学生は大体船長や機関長、特に外航船の船長や機関長になるキャリアに進めますので、そういう意味ではニーズをとらえていると思います。ただ、本学の教員の研究にある自動運航船(30ページ)などが今後導入されていくとすると、船員にも非常に高度な技術が求められてきて、また働き方が変わってくる。その中で本学の卒業生が生き残っていけるように教育も研究も発展させていかなければいけないと思います。将来の展望について▶ 18歳人口が減っているという大学全体の課題についてはどのようにお考えでしょうか。世の中のニーズとして本学の提供可能な価値は絶対になくならないと思います。国外を視野にした話になると、将来的には、アジアもですが、アフリカの人口が爆発的に増えます。 その中で共通の課題として必ず食糧生産が入ってくるんですね。陸上での生産は農薬が発展して穀物が大量に出来るようになっているけれど、今もう限界ですよね。やっぱりそうすると海しかない。良質なたんぱく質をどこから得るかって言われると海だ。海ももう限界じゃないかって言われるけれど、だからこそ持続可能な形で対応していくためにいずれも本学の3つの柱の中に入っている物質の輸送、食料の加工・増養殖、環境保全によって生産性、持続性を高めていく。 世界的課題に対応ができるという面で、ニーズはすごくあると思います。ただ、国内的には18歳人口全体が減ってしまうので、学部の定員を減らすことは今後検討する必要があると思う1960年代後半の品川キャンパス(ニチモウ株式会社様 提供)現在の品川キャンパス 周囲が劇的に変化していく中も変わらずに活動を続けてきました。Tokyo University of Marine Science and TechnologyIntegrated Report12

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