東京海洋大学 2020 統合報告書
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タイと研究するには? ~SATREPSにおけるABS(名古屋議定書)対応~東京海洋大学 産学・地域連携推進機構 URA 設樂愛子 STAREPSでは、研究対象となるバナナエビ、アジアスズキをタイ人の研究者、日本人の研究者とが協力し、タイの養殖場で飼育したり、タイの研究施設で分析・研究を行ったりすることが中心になりますが、日本でも先端的な研究機器やテクノロジーを使った研究活動も進めます。その場合、タイから研究対象の生物の組織(ヒレなど)を試料として日本へ運ぶ必要があります。このような国を超えた試料の行き来は、国際共同研究の中での交流やさらなる研究の加速のために一般的に行われてきました。 一方、各国の生物多様性の保全や遺伝資源※4に対する意識は年々高まっており、近年では諸外国から日本へ遺伝資源を運ぶためには、関連する国際条約※5や各国法令の遵守が必要です。このような枠組みは、各国の生物多様性の保全やその持続的な利用のためには大変重要ではあるのですが、法整備が十分ではない国も多く、手続きが煩雑であったり、規則・ルールがわかりにくい国があったりと、国際共同研究をする上で研究者や大学の負担が増しているのも事実です。特に研究者が何十人も関わるSATREPSのような大型プロジェクトの場合は、行き来する試料の数や回数も非常に多く、また、試料の種類や目的、持ち込む研究者の立場によって、関係する条約や法律等が異なるため、そのマネジメントには多大な労力を要します。本学では、このような大型プロジェクトであっても、安心して研究活動に注力できるように、URAや各事務担当部署が連携して支援できる体制を整え、研究者を支えています。※1 JST:国立研究開発法人科学技術振興機構、JICA:独立行政法人国際協力機構 海洋大プロジェクトWebサイト:https://www.kaiyodai.ac.jp/satreps/index.html※2 借り腹技術(代理親魚技術):ある魚種(ドナー:A)の生殖幹細胞を宿主となる魚種(A’)の稚魚に移植し、成長したA'の生殖巣でドナー(A)由来の卵や精子を生産させる技術。本学の吉崎悟朗教授らが世界で初めて確立した技法。※3 遺伝子工学的手法を利用した育種技術の総称。本プロジェクトではそのうちの分子遺伝育種技術(養殖生産の上で有用な特長:耐病性、高成長性などを有する個体が持つ特徴的なDNA配列を目印に、たくさんの個体の中から遺伝的にその特長を持つ個体のみを選抜し育種に利用する技術。見た目上優秀な個体同士を掛け合わせる古典的な選抜育種よりも早く正確な育種が可能となる)を利用する。※4 動物、植物、微生物など、遺伝の機能的な単位を有するもの。※5 生物の多様性に関する条約、生物の多様性に関する条約の遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分に関する名古屋議定書など(参考:環境省遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分 http://abs.env.go.jp/index.html)国際的な研究活動の財源について 大学の法人化により文部科学省から配分される大学の運営費交付金が毎年減少している中、教員は研究費を競争的資金等に応募するか、企業と共同研究を行うことで獲得する必要があります。国際的な研究活動の財源は、大部分がこうした外部資金により賄われており、その多くが公的機関による資金です。海外との国際共同研究や海外における調査は特に多くの費用がかかるため、外部資金の持続的な獲得が課題となります。運営費交付金5%外部資金95%※研究費全体から、国際共同研究・海外における調査などを主目的とする研究費を抽出したもの。※本グラフには補助金(科学研究費補助金・基金等)の実績は含まない。※競争的資金…内閣府HPhttps://www8.cao.go.jp/cstp/compefund/アジアスズキ国立大学法人 東京海洋大学:統合報告書Integrated Report31PICK UP: RESEARCH

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