東京海洋大学 2020 統合報告書
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包括的な養殖技術の開発で安くて安心して食べられるおいしい魚をプロジェクトリーダー 海洋生物資源学部門 廣野育生 教授▶これまでのタイとの共同研究の流れについて教えてください。1999年開始の日本学術振興会(JSPS)の拠点大学交流事業※1を契機に、タイとの研究交流が盛んとなりました。この事業が10年間続いたあと、次のステップとして、アジア研究教育拠点事業※2を5年間実施し、これと並行して新たにSATREPS※3を岡本信明元学長が中心となって6年間実施しました。現在まで、タイと本学との深い交流は継続しており、本学で学位を取得したタイ人は60人を超えています。東南アジア原産の魚介類を「家か魚ぎょ化か」!▶今回のSATREPSは従前のプロジェクトとどういう違いや特色がありますか。従前のプロジェクトでは養殖業を発展させるため、高級魚を養殖することで養殖業者が安定的に稼げるようにすることが大切だというコンセプトで、高級魚を養殖するための技術開発をメインとしていました。今回のプロジェクトでは、養殖を安価に簡単にできるようにする、家畜化をもじって「家魚化(かぎょか)」と呼んでいますが、その点について特に力を入れています。養殖に関する技術開発、例えば餌の開発・感染症予防・育種といった部分を包括的に行って、ノルウェーサーモンのような養殖の成功例を作りだすことを目標としています。タイなどで安定的に魚介類の養殖ができるようになることで、魚介類を輸入している日本でも安くて安心して食べられるおいしい魚介類が恒常的に手に入るようになります。今回のプロジェクトでターゲットとしているのが、東南アジア原産のアジアスズキとバナナエビです。アジアスズキは、最も養殖されている白身魚の一つであるティラピアと比較すると2~3割増の生産コストがかかっていますが、育種や効率の良い養殖方法を研究すれば、同じくらいの生産コストで生産できると考えています。ティラピアは現在フィッシュバーガーなどの原料になっており安い魚となっていますが、スズキであれば名前のイメージも良く、レストランなどでも使用され、幅広いマーケットが考えられることからより利益を出しやすくなります。また、タイも日本も少子化が進行していることもあり、若手研究者の育成にも力を入れています。国際共同研究の意義▶東京海洋大学において、国際共同研究は盛んだと思われますか。本学は水産分野においてはとても国際交流が盛んな大学だと思いますが、全員が国際交流にポジティブなわけではありません。一度国際交流を経験してみなければ、その面白さもわかりませんし、面倒なだけだと思ってしまう、食わず嫌いな部分があるのかなと考えています。国際共同研究に積極的な人を増やすためには、若手の先生や学生を海外に半強制的に派遣できるような制度が大学にあるといいと思います。実現のためには予算面の課題がありますが、次世代を支える人材育成のために機会が必要だと考えます。私は自分の研究室の学生をできるだけ海外に連れて行くようにしていて、実際に連れて行ってみると英語でのコミュニケーションも上達してたくましくなり、国際交流に積極的になる学生も多いです。私が国際共同研究を続けているのは、楽しいし自分の研究材料があるから、という面もありますが、誰かが続けていかないといけない、という問題意識もあるからです。日本にはたくさんの留学生が来ていますが、留学生の帰国後のフォローがうまく行われていないと感じています。日本で育った優秀な研究者等の人材は、日本との交流より海外進出に積極的に取り組んでいる欧米や中国との交流が多く見られると感じています。研究費の切れ目が縁の切れ目にならないように、誰かがつないでいくべきだと思っています。研究者インタビューTokyo University of Marine Science and TechnologyIntegrated Report32

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