東京海洋大学 ガイドブック2025
11/64

9■増殖生態学水産資源と希少生物を保全する変動する環境のなかで、水生生物はどのように影響を受けながら生活し、子孫を残しているのか。そして、水産資源や希少生物を維持・保全するためには、どのような方策が求められるのか。私たちは、水生生物の保全・増殖を進めるための基礎として、人工繁殖技術の開発とともに、生活史初期の分散・回帰戦略、対捕食者戦略、および摂餌生態の解明に取り組んでいます。また、環境変動や地球温暖化が水生生物の繁殖や分散に及ぼす影響を予測・評価するための研究を行っています。■水族養殖学養殖魚の耐病性メカニズムを解明する養殖魚において、個体間の耐病性形質の違いをゲノム解析し、耐病性メカニズムの解明を行っています。これまでに、個体の耐病性形質の有無を識別できる遺伝マーカーを開発し、その技術を使った“世界初”となる種苗を作出しました。このように、研究成果を活用し社会に還元・産業に利用するための研究を行っています。今後は、耐病性責任遺伝子の探究から、野生集団の遺伝的多様性保全のための研究に展開したいと考えています。■生産システム学絶滅危惧種のウミガメを守る漁業において、対象としない生物種を誤って漁獲してしまうことを混獲(コンカク)と言います。私たちの研究室では、ウミガメや海鳥といった希少な生物の混獲を防ぐための手法の開発に取り組んでいます。まぐろ延縄(ハエナワ)漁業では、ウミガメの混獲を防ぎながらマグロ類の漁獲を向上させる新しい漁具(中立ブイ・システム)の開発や、海鳥の混獲を防ぐために、釣針を早く沈められるような漁具の改良を行っています。また、定置網漁業では、網に迷い込んで溺死してしまうウミガメを網の外へ逃がす手法(ウミガメ脱出支援システム)の開発を行うなど、絶滅危惧種の生物を守るために様々な混獲問題に取り組んでいます。■ゲノム科学サメの力を利用する魚類が生息する水中は、生物の生存を脅かすような病原微生物も含んでいます。そのような環境で、魚類は脊椎動物の中で最も繁栄した動物となりましたが、その繁栄には病気にならないための仕組みが大事であったと考えられます。我々は、サメやチョウザメなどの魚が、他の魚がもつ病気にならない仕組みとは違うことを明らかとしてきました。現在はこのような仕組みを理解し、様々な分野に応用する方法を研究しています。環境応答実験や行動実験に用いる甲殻類、頭足類、および貝類の成体と稚仔野生アユを用いた耐病性ゲノム研究水槽内で人工繁殖させた頭足類、甲殻類、および貝類の卵と幼生世界初となる耐病性ヒラメ系統の作出ドチザメウミガメ脱出支援システムチョウザメ研究紹介

元のページ  ../index.html#11

このブックを見る