神戸大学 統合報告書 2020
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 一部の新型コロナウイルス感染者は症状を示さないことが知られており、このような感染者が病院スタッフとして働くことによる院内感染拡大の可能性が指摘されています。 森康子教授(大学院医学研究科附属感染症センター)らの研究グループは、新型コロナウイルス感染症拠点病院(兵庫県立加古川医療センター)における医療従事者に対し抗体検査を行い、対象者全員が新型コロナウイルスに対する抗体陰性(新型コロナウイルスに感染したことがない状態)であったことを明らかにしました。本研究ではセンター勤務の医療スタッフの既往感染を把握するために、合計509人から血清を採取し、新型コロナウイルスに対する抗体の検出を試みました。医療スタッフは感染症標準予防策を遵守しており、病院ではマスクを着用し、各業務の後にはアルコールで手指消毒を行っていました。また、PCR検査の検体採取時やPCR陽性患者と接触する際には、完全な個人用防護具を着用していました。 この調査結果において特筆すべきは、標準予防策を適切に遵守することにより、新型コロナウイルスへの感染を着実に防ぐことができることを示唆している点にあります。今回の調査によって初めて、新型コロナウイルスに対する標準予防策の有用性が示されました。現在、調査範囲を県内全域まで広げ、2020年8月から9月頃を目途に、5病院の受診者8,000人~1万人を対象とした抗体検査を実施中です。 神戸大学は感染症の脅威を乗り越え課題解決を図る関連研究・調査等の取り組みを社会に表明し、推進することを使命の1つと考えています。この難局に立ち向かうには、医療だけでなく、科学技術、人文社会科学、教育支援あるいはボランティア活動など文理の枠Feature特集1神戸大学と新型コロナウイルス 2020年度前期において、神戸大学では「神戸大学レクチャーハブ」(メディア授業の在り方検討WG監修による遠隔授業ポータルサイト)によるサポートの下、ほぼ全ての講義がWebによる遠隔授業で行われています。 学生から寄せられる相談は「パソコンがうまく動かない」「ネットワークの通信容量が上限に達して通信できなくなる」といった通信環境に関するものが多く、また「一度だけでも新入生同士の顔合わせの場を設けてほしい」という声も聞かれます。キャンパスの役割が講義の提供だけでなく、人間関係を構築する場である事実を見過ごすことはできません。遠隔授業の利点も その一方で「オンデマンド型の講義は自由に時間を使える」「復習がしやすい」といった声も上がっており、今後も引き続き遠隔授業の存続を望む学生もいます。また、遠隔授業によって「障がいをもった学生へのサポートが行いやすくなった」といった声も届いています。 様々な課題がある中で、遠隔授業の利点を最大に活かすべく、この困難な状況を乗り切るための努力を続けていきます。遠隔授業の取り組み感染症標準予防策の有用性を明らかに感染症対策に関する研究・支援を越えた様々な貢献が求められています。現在、感染症に関する研究、支援等が期待される取り組みのアイデアについて、全学から50以上のテーマが集まっています。今後はこれらの展開のステージを見極め、研究の加速、社会実装の実現、教育支援等において迅速なアクションを起こすとともに、社会に対してメッセージを発信していきます。08

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