神戸大学 統合報告書 2020
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に入りました。同社はさらに進んで日本初のシステムによるPCR検査ロボットを開発し、同社の橋本康彦会長(川崎重工業社長)と共同記者会見で発表したところ、大きな反響がありました。PCR検査ロボットは感染のリスクを減らし、検査数を飛躍的に拡大させることができる待望の新機軸です。withコロナ、postコロナの時代を見据えた、新しいイノベーションに産学官が連携してチャレンジすることは、神戸だからこそできるのだと思います。武田学長 神戸大学もイノベーション創出に貢献できると思います。ポートアイランドに開設した医学部附属病院の分院、国際がん医療・研究センター(ICCRC)内で医療用ロボットの臨床現場での活用を検証し、連携して医療機器開発を行える人材育成も行う、まさにアンダーワンルーフ(ひとつ屋根の下)で医工融合を目指す試みはわが国ではまだ例の無い挑戦だと自負しています。環境変化への対応武田学長 新型コロナウイルスに皆が危機感を持っているのは、目の前で患者数の指数関数的変化が起こっているからです。人間はこういう変化に対して危機感を持ちます。ところが10年とか100年という時間スケールでプロットすると、同じような指数関数的変化が起きていても、なかなか気づきにくいものです。気候変動、二酸化炭素(CO2)濃度などの環境変化もそうです。大気中のCO2濃度は産業革命あたりから徐々に上がり始め、ここ100年で急激に立ち上がっています。因果関係を証明するのは難しいですが、毎年のように大きな被害をもたらす集中豪雨も温暖化の結果だと思います。新型コロナウイルス感染者数よりももっと激しい変化が生じているのですが、人間は10年ぐらい経つと変化が起こっていることを忘れてしまいます。そういうことを念頭に置いて、新型コロナウイルスについても考えていかなければなりません。常に経済活動とのせめぎあいがありますが、大学人としては、SDGsを含めて警鐘を鳴らしつづけなければならないと思っています。久元市長 神戸で取り組むSDGsのテーマとして、水素エネルギーの利活用があります。オーストラリアで未利用の褐炭から液化水素を製造し、川崎重工業の水素運搬実験船で日本に輸送します。神戸空港島に荷揚げ施設を建設し、水素エネルギーのサプライチェーンを神戸から構築することは、間違いなく地球温暖化対策にも貢献する取り組みです。将来的には、ヨーロッパで急拡大している風力発電の電力が液体水素に変換され、輸出される可能性もあります。グローバルな見地から水素エネルギーの利活用が間違いなく進んでいくでしょう。ポートアイランドに市街地では世界初の水素発電実証施設を建設し、規模は小さいですが、既に熱と電力を公共施設に供給しています。海洋産業クラスターの形成に向けて武田学長 海事科学部は来年度、国際的な海洋政策を提言できる人材の育成、海底火山・海洋底探査や資源開発などのサイエンスとテクノロジーの探究、ICT活用などの能力を備えた高度な船員の養成に取り組む海洋政策科学部に改組する方針です。日本の輸入の9割近くは海運で入ってきており、国際的な海洋政策に発言力を持つことが重要です。喫緊には、皮肉なことではありますが地球温暖化の影響で北極海が航行できるようになります。これは大きな利権であり、北極海航行のルールづくりに日本からも提言できる人材を育てなければ、ロシアなどの沿岸国に有利なルールが制定されてしまいます。新学部はこういう人材を育てる、文理融合のユニークな学部になると思います。久元市長 これまでの伝統を踏まえながら、海洋政策科学部に改組して新たな展開をされることは、地元自治体として大変ありがたく、期待しています。ぜひ、産学官で連携して神戸の新しい未来を切り拓く海洋産業クラスターの形成を目指していきたいと思います。神戸のロケーションを活かして久元市長 神戸市は商業・業務機能が集積するいわゆる大都会としての顔と、豊かな自然の中でフィジカルディスタンスを確保しながらビジネスを展開できる場所を持つという2つの顔があります。それは六甲山と郊外の里山です。六甲山は避暑地として企業の保養所が集積していましたが、今では遊休化しているものも出てきています。これらを建て替え、改築して、森の中にIT工房やベンチャー企業のオフィス、カフェなどが点在するエリアに変えたい。そこに神戸の人のみならず、全国・海外から入居していただいて、スマートシティを展開したいと考えています。六甲山上には光ファイバーが通っていなかったのですが、今年中に神戸市単独で整備します。自動走行やドローンによる宅配など様々な最先端技術の実装を検討しています。フィジカルディスタンスがしっかり取れて、眼下の風景を見ながら、クリエイティブな発想でビジネスを展開する新しいコミュニティーが形成される。この夢のある構想は必ず実現できると考えています。40

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