神戸大学 統合報告書 2020
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国立大学における「経営」とは 近年、国立大学にも「経営」という概念が使われるようになりました。 国立大学における経営とは、1つは「組織の成長・発展を促し、事業価値を向上させること」であると考えています。大学が持つ多様なシーズを活かし、イノベーションの創造に寄与することで、大学の価値を高め、教育研究の発展を担うのが大学の使命です。 もう1つは、「組織の社会的価値を向上させること」であると考えています。大学は様々な社会的責任を果たし、社会から信頼を得なければ、存在価値は無いと言っても過言ではありません。 国民の皆様から多大な財政的支援を受けつつも、自らのビジョンや戦略に基づき、あらゆる経営資源を有効に利用しながら、常に成長・発展し続けようとすることは、まさに「経営」であると言えます。経営資源のマネジメント 一般的に経営資源とは、ヒト・モノ・カネ・情報の4つを挙げられることが多いのですが、国立大学においても「ヒト(教職員)」、「モノ(建物や設備)」、「カネ(資金)」、「情報(研究シーズや知的財産)」はすべて重要な経営資源であり、その資源配分は経営戦略上の重要なポイントとなります。 神戸大学では財務戦略の立案、多様な財源の獲得と戦略的な資源配分、決算情報やコストの分析までをサイクルとして「財務マネジメント」を確立することで、自立的かつ将来にわたって持続可能な財務基盤の強化を図ります。財務情報の適切な発信 神戸大学では、これまで様々な「見える化」に取り組んできましたが、2019年度決算からは、財務諸表においてセグメント別情報をより詳細なレベルにまで開示することとしました。主に学問分野が類似する「学系」ごとにセグメント情報を整理しています。 国立大学法人会計においては、収益とは「業務を実施するための財源」を表しますので、p.50の表では、どのセグメントがどのような財源で支えられているのかという傾副理事(財務・施設担当)事務局長吉田潔向が読み取れます。ただし、附属病院を除いて、各セグメントの「業務損益」は、セグメント間の費用配賦や収益計上時の調整を経た上で算出されたものであり、それがそのまま利益を指すものではないため十分留意が必要です。 このように、セグメントを含む財務情報に関する開示の在り方はまだまだ課題を内含しています。それは、国立大学法人会計に基づく財務諸表が、ステークホルダーが求める経営情報と必ずしも一致していないことに由来していることが原因とも考えられます。だからこそ、これを踏まえ各大学においても丁寧かつ主体的な説明責任を果たしていかなければならないのも事実です。その意味では、大学が統合報告書という媒体によってその事業価値や社会的価値を積極的に発信するとともに、財務情報を社会に対して「見える化」することは、神戸大学が社会に向けて果たすべき重要な責務であると考えます。危機の突破と会計のチカラ 2020年、世界は新型コロナウイルスの感染拡大により多くの尊い人命が失われるとともに、甚大な経済的損失が発生しています。一方で、特に日本においては、「デジタル化」の遅れなど、コロナ禍において社会課題が数多く露見しました。各大学においてもオンラインによる講義の実施など、これまで当然と思われていた大学教育の在り方が根底から見直しを迫られました。 今こそ、国立大学が社会課題解決のための教育研究拠点としての役割を遺憾なく発揮し、「with/postコロナ」を見据えた新しい人類社会を創造していくことが求められています。神戸大学が社会変革の原動力となり地球規模の課題解決に貢献するため、教育・研究戦略の下支えとなる会計やそれを基にした財務戦略が果たすべき役割は、ますます大きくなっていると感じています。51Finance and Management

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