神戸大学 統合報告書 2020
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 神戸大学は、1902年、神戸大学の前身である神戸高等商業学校の開学以来、「学理と実際の調和」という理念を掲げ、「知」の創造と社会で活躍する人材の養成に取り組み、各界で活躍する卒業生を送り出してきました。また、阪神・淡路大震災を経験した大学として、ボランティア活動に取り組む学生が多いのも特色の1つです。 私は学長就任以来、研究大学として神戸大学の評価を高めるため、様々な組織改革を進めてきました。その中でも大きな柱が、4年前に設置した「科学技術イノベーション研究科」です。この研究科は、自然科学分野で得られた研究成果を社会へ還元する事業創造に焦点を当てた、文理融合型の独立大学院です。この研究科と連携して大学発ベンチャーを支援する会社が設立され、そこから6社の企業が誕生しています[pp.24~25]。内外の投資ファンドから出資を受け、社会的な評価も高まっており、今後のさらなる展開を楽しみにしているところです。 また、2017年に国際文化学部と発達科学部を再編統合し設置した国際人間科学部では、全学部生に留学、海外研修などを義務づけました。海外で11年間過ごしていた私としては、海外での日々の生活は、冒険であり、人生観が変わる経験となることを身に染みて感じております。現在は新型コロナウイルス感染症の世界的流行により留学、海外研修などを中止しておりますが、この学部では、深い人間理解と他者への共感をもって地球的規模の課題に向き合い、世界の人々が多様な境界線を越えて共存できる「グローバル共生社会」の実現に貢献するような「協働型グローバル人材」を養成することが、大切な使命だと考えております。 研究に関しては、基盤的経費の減少によって法人化前からの承継ポストを維持できなくなるなど厳しい状況のなかでも、論文数・国際共著論文数などは着実に増えており、高い成果を上げております。ただ、他大学も努力を続けており、大学ランキングや文科省の予算配分で、既存の序列を打破するところにまで至っていません。その理由の1つに、神戸大学が強みを持っている社会科学系の成果が正しく評価されていないことがあります。大学ランキングなどに使われる指標は、理系の研究論文の指標が中心で、人文社会系の研究を評価することができていないのです。今後こうしたルールづくりで主導的な立場を取ることが、神戸大学の評価を上げることにもつながります。 近年、経済のグローバル化、事業分野の複合化が進むとともに、イノベーションに対するスピードが求められるようになり、オープンイノベーションの動きが加速してきました。産業界からは大学が持つ技術や研究力を生かした基礎研究の需要が高くなり、「組織」対「組織」の産官学連携[pp.22~27]によって大型の共同研究が増加しております。産官学連携の取り組みは、大学にとってみても、研究を促進するだけでなく、社会的ニーズの把握や学外との交流などを通じて、より知見を広めるチャンスでもあります。さらには訓練を積んだ優秀な人材を社会に供給することにも繋がり、極めて有益です。私は、このような産業界と大学のwin-winの関係を維持していきたいと考えております。 また、現代においてSDGs[pp.60~61]に代表される社会的な課題の解決は急務です。これに対して神戸大学はこれから文系理系の融合したV.Schoolで斬新な発想を提案できるかもしれません。そういう努力を続けていき、この神戸の地からイノベーションを起こしていきたいと思っております。神戸大学のこれらの取り組みが社会の皆様にご理解いただけるよう、私も含め全構成員が学内の情報を共有し、また、外部からのご意見をしっかりと受け止め、大学改革に反映することが重要です。 その1つのツールとして作成した統合報告書は昨年に続き、2冊目になります。今年も、自ら手を挙げた若手職員が中心となって、全学横断プロジェクトとして一から作成にあたってくれました。統合報告書は、財務情報だけでなく、その組織の全体像や発展の方向性を社会に発信するものです。教員とは異なる視点で大学を見つめている職員が、その作業を通じ大学のあり方を考えることは、これからの厳しい大学間競争を勝ち抜くという意味でも画期的なことだと思っております。神戸大学の強み大学としてのミッション06

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