神戸大学広報誌『風』 Vol.18
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00癌11神戸大学では、若手研究者の活性化と、将来の研究リーダーとしての活躍を期待して、卓越した業績を挙げた若手研究者を表彰する「優秀若手研究者賞」を毎年度実施しています。令和3年度の受賞者5名のうち、「学長賞」を受賞した保健学研究科・前重伯壮助教に、自身の研究について解説してもらいました。 リハビリテーション専門職(理学療法士・作業療法士)として、私は骨格筋を活用して生体免疫を是正・補完する手段の開発に取り組んでいます。骨格筋は、私達の身体を動かす「運動器」として働くのみならず、全身的に様々な生理作用をもたらす「分泌臓器」であることが知られています。一方で、その疾病の予防・管理への応用方法は明らかにされていません。 近年、各種細胞から分泌される膜小胞、特に「エクソソーム」の作用が注目され、抗炎症作用を有する間葉系幹細胞由来エクソソームの治療応用が進められています。興味深いことに、私達は培養筋管が分泌する筋由来エクソソームがマクロファージの過剰炎症反応を抑制すること、前立腺がん細胞の増殖を抑制することを、ハーバード大学公衆衛生大学院での留学研究(若手教員長期海外派遣制度)で発見することができました。骨格筋は、運動や物理療法によって、治療者または対象者自身が意識的に活動を制御できるため、分泌臓器として活用しやすく、さらに、体外での培養や他者からの移植を必要としないため非常に簡便です。現在、エクソソームおよびレシピエント細胞内のメタ■骨格筋エクソソームの生体内産生制御による疾病予防・治療技術の開発特集 2 神大 研究ズームアップ治療的臓器骨格筋筋代謝活性化Special Topic1.81.20.6大学院 保健学研究科 保健学専攻 助教前重 伯壮MAESHIGE Noriaki■高強度超音波照射による筋由来エクソソームの放出促進ボロミクス解析とmiRNA-Seq解析にて機序解明を行い、筋の健康を示すバイオマーカー開発に着手しています。 同時に、リハビリテーション介入手段の一つである物理療法、特に超音波療法の開発に注力しています。超音波療法は、照射組織でキャビテーション(空洞現象)を生じることによって、様々な細胞反応を惹起します。私は、褥瘡に対して中等度強度(0.5 W/cm2)の超音波を照射して治癒が促進することを報告し、国内外の褥瘡ガイドラインの治療推奨に貢献しました。また、国内の物理療法機器メーカーが開発した音響出力の均一性が高いプローブを活用することで、細胞傷害性を生じない高強度超音波照射(1〜3 W/cm2)を可能にし、様々な効果を報告してきました。その応用の一つとして、筋エクソソームの放出促進を検出しました。培養筋管およびマウス骨格筋への超音波照射で効果が明らかになったため、現在はヒト骨格筋への照射を目的として、広範囲照射が可能な超音波治療機の開発に取り組み、試作機の作成を終えた段階です。 骨格筋は人の生活や健康に幅広く貢献する器官ですので、汎用性が高く効果の大きいリハビリテーション技術を神戸大学で開発し、世界に発信することを目指します。細菌樹状細胞マクロファージエクソソームレシピエント放出への同化レシピエント機能制御抗炎症動脈硬化改善糖尿病予防抗微生物肺炎予防・改善抗癌がん増殖抑制再発予防■研究歴(主な職歴と研究内容)2006年〜2010年 栄宏会土井病院リハビリテーション科理学療法士 褥瘡に対する超音波療法の臨床研究/線維芽細胞に対する超音波療法のin vitro研究を実施。2011年〜2013年 神戸大学大学院保健学研究科病態解析学領域病態代謝学分野研究員 宇佐美眞教授研究室で、脂肪酸による過剰免疫反応・肝機能障害の制御戦略について研究。2014年〜現在 神戸大学大学院保健学研究科リハビリテーション科学領域助教 藤野英己教授研究室と共同し、骨格筋に対する物理療法・栄養療法の効果について研究。2018年 ハーバード大学公衆衛生大学院Genetics and Complex disease領域客員研究員 Tiffany Horng博士研究室同領域Zhi-min Yuan博士研究室で骨格筋エクソソームによるマクロファージ極性・代謝制御について研究。UltrasoundControl100200300400500紹 介異種細胞間 代謝コピーtopic若手研究者令和3年度「優秀若手研究者賞・学長賞」を保健学研究科の前重伯壮助教が受賞

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