的に正しいとしても倫理的にはどうか」、あるいは「90%の人にとって良い技術であっても、10%の人にとって致命的な問題があったらどうするか」といった判断において、技術者が責務を負っていないとは言い切れません。そうした判断を迫られたときに、正しい価値判断を導くプロセスについて、しっかり教育していく必要があります。そのためのカリキュラムの一つに「技1 術者倫理」があります。これはスペースシャトルの事故など、過去の事例について、事故が起きた原因を検証する授業です。技術者と経営者の倫理の葛藤など、そこでの価値判断は倫理的な問題や哲学的な問題をはらんでいます。科学技術の影響力は日増しに強くなっているので、地球温暖化などの社会の問題に対して、技術者が意見や意思決定を求められる場面も増えるでしょう。技術者の価値判断の問題に取り組むことは、100周年ビジョンのアクションプランを考える上での課題です。ただ、社会のニーズは変わっていきますし、「ユーザーのニーズ」イコール「社会のニーズ」というわけでもありません。たとえば、ユーザーニーズに応えて自動車をどんどんつくっていくと、環境問題の悪化を招くように。つまり、ユーザーのニーズの先にある社会のニーズを考える素養と能力が必要で、それなしに「言われたからつくる」という技術者では困ります。社会の在り方に対しても言及し、科学技術、工学技術を使ってどんな社会が実現できるかというビジョンを社会に与えていく役割が、工学にはあるのです。大切にしたい。現実的な制約や数値目標にとらわれると、得てして短期的で矮小化されたものしか思考できなくなりがちです。そもそも目標達成のために数値目標をつくって取り組むという考え方はどこか人間離れしているし、個性というものを全く無視している。これこそが近代の問題点です。本来の目的そのためにも、学生の自由な発想をと数値目標が乖離していくことを警戒し、常に俯瞰的にものを見る姿勢が、自由な発想においてはとても重要です。「創造性を育む価値観の形成」という教育理念を実現し、工学部を「知の拠点」として確立したいと思います。神戸大学の工学部には優秀な学生が多いです。その能力を創造性豊かに開花させるために、学生自身が何をしたいのかということを、工学部ではしっかり考えています。自分の発想で世の中を良くしたいと思う学生の皆さんを歓迎します。|あくまで社会のニーズを前提に?|高校生に向けて工学部のアピールを。05● これまでとこれから● 私たちの神戸大学工学部● ずっと続くしあわせづくり世界とつながる「知」の拠点、神戸で ものづくり、ことづくり、そして ずっと続くしあわせづくり特集1 人類の「しあわせづくり」に貢献する自由で豊かな「知」の拠点構想Special Topic1つの芽が大木となり多くの実をつけるまでには、豊かな土壌と太く張り巡らされた根、継続的で細やかなケアが不可欠です。神戸大学工学部における人材育成の考え方も同じで、広い視点から多角的に人材を育成する環境を整えます。神戸大学工学部の100年の歴史を振り返り、多くの工学人材を輩出してきた実績を再確認しながら、持続可能で幸福な社会づくりを視野にいれた工学研究の発展をめざすこれからの工学部をイメージしています。工学研究がこれまで培ってきた叡智を道標に、教員や学生が共に未知なる対象に向き合う研究者仲間として、不確実で流動的な社会の中のまだ見ぬ可能性を問いながら歩む姿を、夜の航海に見立てて表現しています。ANNIVERSARYvision
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