機械加工の完全自動化で町工場の危機を救う私たちが日ごろ手にしたり利用したりする製品(例えばスマートフォンやパソコン、自動車、航空機)の部品には、数多くの機械加工部品が使用されています。スマートフォンの筐体から航空機エンジンのタービンブレードに至るまで、アルミニウム合金などの金属の塊から削り出して加工されています。一般的に、金属材料の製品を削り出して加工する場合、数値制御(NC)工作機械と呼ばれる機械で加工します。これは切れ刃のついたエンドミルと呼ばれる工具が高速で回転し、予め作成された工具の経路情報(NCプログラム)に従って工具が移動することで、材料を除去(切削)していく加工となります。しかし、このNC工作機械での加工は一見すると自動化が実現されていますが、機械に指令する工具の経路情報を作成するには、非常に多くの手間と時間、さらには機械加工の知識を要します。つまり、一見自動化が実現されている機械加工も、それを実現するまでの段取りに人手を要しており、完全自動化にはまだまだ至っていないのが現状です。スマートフォンや自動車の部品のように同じ形状のものが大量に市場に供給されるものであれば、一度手間と時間をかけて工具の経路情報を作りこめば、何百台というNC工作機械を並べて加工すると、その部品1個当たりの段取り工数の占める割合は無視できるかもしれません。しかし町工場では、1個しか作らないという部品も珍しくなく、例えば工具の経路情報の作成に60分(人手)、機械での加工が10分(自動)というようなことも珍しくありません。さらに、経路情報を作成できる熟練の技術者は限られており、人的資源が枯渇しているのが現状です。世界が掲げている持続可能な開発目標(SDGs)にある持続可能な産業化を実現するためには、従来のような人に依存したやり方だけではなく、コンピュータ技術やIoT技術を駆使した新しいものづくりの仕組みを構築する必要があります。タル情報(CADモデル)のみを入力して、工具の経路情報の作成を完全に自動で実現するシステムを構築しています。CADモデルの形状を解析して、除去すべき領域の情報や各領域の加工に使用する工具の選定、加工条件の決定、加工順序の決定など、従来では熟練の技術者が行っていた高度な判断をソフトウェアに組み込むことで自動化を実現しています。これにより、自動化でき私の研究では、製品の3次元のデジBESTOWS株式会社を起ち上げ、技術る加工はシステムに任せて、熟練の技術者はより高付加価値の加工に専念することができます。人とシステムのいいとこ取りをして、共存していくことが大事です。私は実現したシステムを社会に展開するために大学発ベンチャーである移転の活動もしています。研究成果を実社会で活用してもらい、そこで得た資金を大学へ還元して研究環境を充実させて、新たな研究活動を行うような好循環を生み出せればと思い、日々奮闘しています。 IsamuNIISHDA神戸大学大学院工学研究科助教西田勇06kaze Vol.18加工事例データ蓄積のための実加工結果工具の経路情報の完全自動生成技術回転数送りエンドミル切り込み材料Engineering Products, Services, and Sustainable Happiness @The Port of Sapience, Kobe次世代に向けた工学の分野を担う人と研究
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