神戸大学広報誌『風』 Vol.19
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終的には「グリーン資源循環」をキーワードとする研究拠点の形成まで発展させたいですね。世界に目を向け、こうした技術を必要としている国・地域に貢献していきたいと思います。私の専門は高分子材料の研究で、プラスチック材料をターゲットにして、振動分光法(※)による分析を行っています。特に生分解性プラスチックの研究を中心に、より環境にやさしいプラスチック材料の開発を進めています。資源循環イノベーションのプロジェクトにおいては、廃棄されたプラスチック材料をエネルギーに変換する途上で、プラスチック分解細菌によって材料が分解していく過程を追いかけて、分析装置 異分野の先生方とディスカッションをしていると、いろいろな新しいアイデアが生まれてきます。一人ではできない研究であるという点で、非常に魅力的なプロジェクトであると感じています。で内部の構造を調べる部分を担当します。プラスチックがどのように分解していくかについては、まだよくわかっていない部分が多く、それがわかれば新しい材料開発やエネルギー変換に関する知見として非常に有益です。今回のプロジェクトでは、ターゲッ   トの一つとしてPET樹脂を想定しています。PETは市場での消費量が多い素材ですので、これを分解してエネルギー変換できれば、資源循環が可能になります。生分解性の素材開発も重要ですが、こうして資源として回すことも非常に重要ですので、今回の異分野共創研究の成果によって、社会に大きく貢献できると考えています。 ただ、プラスチック材料にはPETのほかにポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなどさまざまな素材があり、それぞれに応じて有効な分解細菌や条件を定める必要があります。最終的には、いろいろな分解細菌を入れて、Aの菌はある材料を分解し、Bの菌は別の材料を分解するといった働きを一つにまとめることができれば、汎用的に廃棄物の分解を進めることが可能になります。夢のような話ですが、市場規模も世の中に与える影響も大きいテーマなので、実現したいです。 異分野の先生方と一緒に研究を行うと、自分一人では考えつかない切り口からアプローチして研究を進めることができるので、新しい知見が得られるメリットがあります。すごく刺激になりますし、思いがけない展開になることもあるので楽しみです。プラスチックの分解過程を明らかにし、資源循環と素材開発に貢献する※振動分光法:対象材料に光を照射し、透過・反射光を分光することでスペクトルを得て、対象物の構造を調べる手法イントロダクション太陽光エネルギーによって水から水素ガスなどの有用物質を生産する光触媒、微生物を使ってバイオ燃料や化学品原料の生産、プラスチックなどの廃棄物の分解を行うバイオ工学は、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラルを実現するための有力な基盤技術だ。神戸大学が強みを持つ両分野の研究者が「太陽光とバイオエネルギーを駆動力とし、廃棄物をグリーンな水素と資源に変換する夢の資源循環システム」を構築する異分野共創研究プロジェクトを開始した。大学院人間発達環境学研究科 教授関西学院大学理工学研究科博士研究員、神戸大学大学院人間発達環境学研究科准教授などを経て、2018年4月から現職。学長補佐を兼任。13共創と協働ProjectMembers立川 貴士 分子フォトサイエンス研究センター 教授木村 哲就 大学院理学研究科 准教授荻野 千秋大学院工学研究科 教授蓮沼 誠久 先端バイオ工学研究センター 教授佐藤 春実大学院人間発達環境学研究科 教授佐藤 春実SATO Harumi

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