神戸大学広報誌『風』 Vol.19
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起きたのかを特定しなければなりませんが、発生直後は混乱している上に情報が限られるので特定は難しい。その際にSNSから追加的に情報を得ることでシナリオの特定に役立てられれば、事前のシミュレーション結果に基づいて避自然災害に伴って、さまざまな感染症が広がることは大きな問題です。しかし、自然災害に伴う副次的な二次災害としての感染症の対策シミュレーションは、世界にもまだ例がありません。これは私見ですが、今回の仮想現実空間における災害シミュレーションは、人と人との交流で感染するヒトヒト感染症と、ベクター(媒介生物)媒介性の感染症のシミュレーションに応用可能で、公衆衛生上の対策に活用できると考えています。地震、山火事、洪水など、自然災害の種類によって、発生する感染症は大きく違ってきますが、災害からの「復興期に感染症が流行する」という点では共通しています。今回のシミュレーターで、災害復興期における人の動きや、エリアごとの避難所の収容人数な難や救助の意思決定を迅速に行うことができ、被害を最小限に抑えることができます。それにより事前の防災・減災のポイントも見えてきます。これを統計的に、システマティックに行うことが究極的な目標です。どのシミュレーションができれば、避難所での感染を抑制するための効果的な対策を検討できます。また、災害発生直後からの人々の避    難経路をこのシミュレーションで予測し、住民にとって最も利便性が高い経路を特定できれば、普段からその経路を使った避難訓練を実施するなど、平常時における災害訓練にも応用可能でしょう。 デジタルツインプロジェクトにおいては、人の動きのシミュレーションを行うことが当初から想定されていました。シミュレーションの中で、より現実世界に近い形で人を動かすことで、感染症の複雑な伝播経路を予測できます。それは災害時に限らず、平常時の感染対策にも生かせるものになるでしょう。まずは地震シナリオに基づく一つのシミュレーションのモデルを作り、そこで実際に影響する多分野のファクターを各分野の専門家が考えてシミュレーターを作れば、他の分野にも応用可能です。自分の専門分野を狭く深く研究することも大事ですが、そこで得た知見を俯瞰で見ながら参加できる異分野共創プロジェクトの意義は非常に大きいと思います。生命・医学系の専門家として、また、特にヒトヒト感染症の専門家として臨床も含めて積み上げてきた経験を生かして、専門的知見に基づくファクターの提供をしていきます。災害時だけでなく、平常時の感染症対策への応用をめざすイントロダクション巨大地震の被害を最小限に抑え、速やかな復旧復興を図るためには何が重要なのか。神戸大学は、神戸市を対象にした「都市丸ごとシミュレーション技術」を開発してきた。その成果をさらに発展させ、スーパーコンピュータ「富岳」の計算能力と、自然科学、社会科学、人文・人間科学、生命・医学の研究者による異分野共創によって、未来ビジョンの構築に取り組む。地震がもたらす建物やインフラへの被害から、ヒト、モノ、カネ、情報の流れ、SNSの反応や感染症の流行まで、高精度に予測し、望ましい社会のあり方と実現の方策を提言していく。都市安全研究センター 准教授1998年神戸大学医学部卒。神戸大学都市安全研究センター助教などを経て現職。未来世紀都市学研究アライアンス都市レジリエンス学マネジメント・ガバナンス部門メンバー。計算社会科学研究センター センター長・教授理化学研究所チームリーダー╱都市安全研究センター 教授都市安全研究センター 教授大学院人間発達環境学研究科 教授都市安全研究センター 准教授15共創と協働ProjectMembers上東 貴志 大石 哲 飯塚 敦 織田澤 利守 大学院工学研究科 教授近藤 徳彦 大路 剛 正田 ヴェラ パオラ レイエス 計算社会科学研究センター 助教大路 剛OHJI Goh

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