神戸大学広報誌『風』 Vol.20
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外出自粛要請に対して、消費者が自主的に、ボランタリーな形で旅行や外出を制限することが求められました。海外のように強制力のある行動制限ができない以上、デマンド・コントロールの視点が有効になります。企業や消費者の行動に実質的な影響を与えることができる点で、公益事業がパンデミック下の協力体制作りにおいて効果的な触媒になると考えています。ただ、例えば電力の場合、デマンド・レスポンスで利用料が高い時間帯が終わると、電力使用量が増えるというリバウンドが起きます。このリバウンドを抑えるためには、消費者の内側から出てくるボランタリーなモチベーションを向上することが有効であることがわかっています。つまり、価格メカニズムだけではなく、非価格的なメカニズムとして教育や啓蒙、情報のフィードバックを併用していくことが重要になります。政策の実施主体を一部、公益事業が担う形にすればどうでしょう。例えば、電力政策の実施主体を電力会社にするわけです。需要者の情報を持っているのは絶対的に公益事業ですから、その情報を逐一政府に上げて、政府で政策を立案するよりも、公益事業が主体的に担当してはどうか、という考え方です。取引費用というものは、取引があるからそこに発生するわけですが、取引がなければコストもなくなるので、その分、政策がより明確に伝わるはずです。それが正しいかどうか、可能かどうかはまだ検証していませんが、一つの可能性として探ってみたいと思っています。 まず、関係者に対するヒアリングを行い、問題の洗い出しから始めます。パンデミックにおいては医療関係者との連携が一番大事なので、医療関係者から見た連携における問題点を探っています。その後、自治体や公益事業体、地域住民や企業などにもヒアリングを実施します。2年目には連携・協力体制の理論モデルを構築します。取引費用理論をはじめ、組織デザイン論や経営学の調整・連携といった手法を組織間調整の文脈にあてはめて、体系立てた連携システムの仮説を作ります。3年目にその仮説をデータを元に検証し、4年目にはヒアリングを行った先に、研究結果をフィードバックします。必要であれば、より実行可能性を高めるために仮説の再検討を行いますが、さきがけのプロジェクトとしては3年半で完結させます。海外にもありません。ですので、日本だけではなく、海外も含めて一般化した形でモデルを提示したいと思っています。そのために、海外でもヒアリングを行います。また、政府から個人まで、関わる主体が多岐にわたるモデルになるので、理系の研究者と連携してシミュレーションを行いたいですね。シミュレーションの際のパラメータが主体間で変わるという前提を置いて、全体で情報が行き渡るのにどれくらいコストや時間がかかるか、といった分析が可能になるでしょう。シミュレーションとデータサイエンスの部分は、文理融合の研究対象となります。関係者間の取引費用を下げるための制度作りや、不確実性の多い環境で必要になる仕組み、取引費用が低いコミュニケーションを促進するためのプラットフォームなどを提案したいと思っています。|公益事業体は政策に影響を与えることもできるのでしょうか?文理融合の研究もターゲット|研究はどのように進めるのですか?|社会全体が対象ですが、そんなに大きなモデルは、海外の事例にありますか?|社会実装のイメージは?13研究目的:パンデミック等の緊急時に必要となる企業間連携や住民間協力の最適体制を公益事業を中心とした地域の持続可能なプラットフォームとして構築する手法を確立する利害利害対立特集 2 神大 研究ズームアップ[02]Special Topic消費者・住民私的利益社会統合的な統制・連携ネットワーク   + 公共利益政府・自治体調整一般企業私的利益利害利害利害対立対立利害対立公益事業公共利益私的利益

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