神戸大学 理学部・大学院理学研究科 2021
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研究の特色 上記のように、物理学専攻・物理学科では、物質の根源を追求する「素粒子物理学」と物質の形態・性質を研究する「物性物理学」を教育研究の2本柱に据えて、それぞれに理論分野と実験分野とを配しています。組織構成としては、理論物理学、粒子物理学、物性物理学の3講座から学科が構成されています。理論物理学講座(教育研究分野:宇宙論、素粒子理論、量子物性論、物性理論)では「素粒子・宇宙物理学」と「物性物理学」の理論的研究を行っています。粒子物理学講座(教育研究分野:粒子物理学)、物性物理学講座(教育研究分野:低温物性物理学、極限物性物理学、量子ダイナミクス、電子物性物理学)では、それぞれ「素粒子物理学」と「物性物理学」の実験的研究を行っています。研究トピックス物質中の新しい電子状態の追求 みなさんは電子が示す性質についてどれくらい知っているでしょうか? それを一つの粒子として見たとき、負の電荷をもつ素粒子であり、原子の構成要素の一つです。その性質を正しく理解するためには量子力学が必要、ということを聞いたことがあるかもしれません。では、固体の物質が形成されたとき、その中にある電子の集合体にはどのような性質が現れるでしょうか? もちろん、それは物質の種類に大きく依存します。金属では電流として電荷を運ぶことも出来ますし、磁石では強い引力や斥力を引き起こす源になります。物質によって電子の置かれている状況は異なり、もはや一つの粒子としての性質を超えた多彩な性質が出現します。それらを理解するためには、やはり量子力学などの先端的な学問が必要になります。 私たちは物質中の電子が示す多彩な性質にどのような可能性があるかを追求しています。そのために物質を通常とは異なる環境中(低温、高圧など)に置くこともあります。電子状態の多様性を示すために、図にCrAs(クロムヒ素)という物質に対する例を示します。CrAsは古くから知られた磁性体でしたが、我々のグループの研究から圧力によって物質を圧縮した状態で約2 K(ケルビン)という低温にすると超伝導を示すことが明らかになりました。超伝導というのは低温で2つの電子がペアを作る状態のことで、電気抵抗がゼロになります。磁気的な性質と超伝導は全く異なる性質ですが、一つの物質の中で同じ電子が両者を引き起こしています。 世の中には数えきれないくらいの物質が存在していますし、物質それぞれに電子の状態は異なります。その中には予期せぬ現象がまだまだ眠っているはずです。みなさんも物理学科で電子が持つ奥深い世界を楽しんでみませんか?「宇宙論で探る素粒子と重力の物理」 宇宙の歴史を紐解く「宇宙論」、ミクロな世界の基本法則を探る「素粒子論」、量子重力理論の有力候補である「超弦理論」の3分野にまたがって理論的研究をしています。特に、近年進展の著しい宇宙論を用いてミクロな世界における素粒子や重力の性質を解き明かすことを目指しています。 これまでの主な研究テーマの1つは宇宙初期の加速膨張「インフレーション」です。右下の宇宙年表にも描かれているように、インフレーション中には宇宙が急激に膨張し、ミクロな世界の情報が宇宙規模に引き伸ばされます。そのため、宇宙最古の光「宇宙背景放射」などの観測を通じて素粒子の世界を探索することが可能になります。地上で行う素粒子実験では、粒子を加速し、高エネルギーで衝突させることでミクロな世界を探索しますが、この考え方を応用し、インフレーション宇宙そのものを「超高エネルギー加速器」とみなして、大統一理論や超弦理論などの「素粒子の究極理論」を検証する手法を理論的に開発してきました。 そのほかにも、超弦理論に代表される量子重力理論の立場から、現代物理学の最大の謎である「暗黒物質」や「暗黒エネルギー」の正体に迫ろうという研究を進めています。 理論物理学は分野の垣根が低く、様々なバックグラウンドを持った研究者が交流することで発展してきました。また、学生や研究員、教員みんなが自分のアイディアを持ち寄って日々切磋琢磨しています。物理の議論が好きな皆さん、神戸大学で是非一緒に研究しましょう!小手川 恒 准教授低温物性物理学教育研究分野野海 俊文 助教宇宙論教育研究分野宇宙年表:宇宙の歴史のイメージ図(左)CrAsの磁気的状態。Crの磁気モーメント(小さな磁石)が様々な方向を向く。 (右)圧力下の電気抵抗率。約1万気圧以上の環境下で超伝導(ゼロ抵抗)が現れる。15

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