神戸大学 理学部・大学院理学研究科 2021
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研究内容理論物理学講座宇宙論:時空と物質の起源の研究担当教員:早田次郎、野海俊文 宇宙論は、時空と物質の起源、そしてその進化を研究する学問です。様々な波長の電磁波や重力波の精密観測によって、宇宙誕生後約40万年の頃のビッグバンから現在までの宇宙の姿が高分解能で観測できるようになってきています。インフレーション理論を通してミクロな世界を探求すこと、暗黒エネルギーや暗黒物質の謎を解明することが、我々の主な研究テーマです。マクロの宇宙とミクロの世界が絡み合った領域の研究から、新たな時空像を描くことを目標とした研究が行われています。素粒子理論: 物質を構成する素粒子の理論的研究担当教員: 坂本眞人、園田英徳 標準模型よりも高いエネルギースケールの物理(余剰次元、超対称性)の研究とともに、汎関数くりこみ群の手法を使った場の理論の基礎研究を行なっています。特に、最近脚光を浴びている余剰次元の物理は、通常の時空の4次元のほかに、さらに次元のある可能性を追求するもので、余剰次元の存在によりいままでの素粒子理論が抱える2つの大問題―階層性の問題(標準模型のエネルギー・スケールがプランク・スケールに比べてあまりに小さいのはなぜ?)と超対称性の問題(なぜ、またどのように破れているのか?)―を解決できる可能性があります。量子物性論:量子力学を用いて物質の性質をひもとく研究担当教員:播磨尚朝 重い電子系などの強相関電子系と呼ばれる巨視的な結晶に発現する多様な磁気的・電気的性質を、量子力学に基づいた数値計算的手法を用いて解明する研究を行っています。フェルミ面や電場勾配などの物理量を実験結果と比較することで、新奇超伝導や多極子秩序や金属・非金属転移などの発現機構などを理解します。多様な物性の包括的な理解を得るために、群論を用いた考察を援用することと、多くの実験研究グループと協力していることに特徴があります。物性理論:超伝導や相転移など物質が示す性質の理論的研究担当教員:久保木一浩、西野友年 物性物理は原子や分子が集まった固体や液体など、凝縮系の性質を研究対象にしています。このような多体系に潜む特有の物理法則を理論的に解明して行くことが物性理論の目標です。 高温超伝導体はその高い臨界温度から将来的な応用が期待されるだけでなく、磁性との共存などさまざまな興味深い物性を示します。他方、物質の表面など低次元格子系では幾つもの異なる状態が実現し、その間の移り変わり(相転移)には物質の特徴を越えた普遍性を見いだせます。私達はこれらの現象を、場の理論や量子情報理論などの解析的手法と、密度行列繰込み群など最先端の数値計算を組み合わせて研究しています。粒子物理学講座担当教員: 藏重久弥、竹内康雄、山﨑祐司、身内賢太朗、越智敦彦、前田順平、鈴木 州、中野佑樹 物質を構成する基本粒子(素粒子)はどのようなもので、その間にはどのような力がはたらいているのでしょうか。我々は巨大な粒子加速器、宇宙線などを用いた様々な実験で、この基本的な問題に取り組んでいます。最近の精密な加速器を用いた実験や宇宙観測の結果から、我々が知っているクォークやレプトンなどの粒子よりも質量の大きな素粒子が存在するはずとの間接的証拠が数多くあります。本講座では、これらの粒子の発見を目指して様々な実験を行っています。その一つは世界最高エネルギーで陽子を衝突させるLHC (スイス・CERN 研究所) を用いたアトラス実験です。2012年にはこの加速器でヒッグス粒子が発見されました。現在より高いエネルギーの衝突で実験を行うとともに、より稀な事象の探索のための高頻度衝突実験に向けて、実験装置のアップグレードを行っています。 レプトンの一種であるニュートリノ(ν)は、素粒子の標準模型で説明できない未解明の性質を持っており、宇宙創成の鍵である可能性もあります。我々はν研究の最先端であるスーパーカミオカンデ(SK)実験、T2K実験(茨城県東海村のJ-PARCで人工的に生成したνをSKで検出)、さらに2027年からの観測開始を目指して現在建設中の次世代超大型水チェレンコフ装置実験ハイパーカミオカンデ(HK)に参加しています。また、宇宙暗黒物質(ダークマター)の直接探索にも取り組んでおり、大質量の液体キセノンを用いるXENON実験・XMASS実験、方向に感度のある検出器を用いるNEWAGE実験を推進しています。ダークマターは未発見の素粒子である可能性が高く、現在世界で活発に研究が行われています。SK・HK実験、暗黒物質探索実験は、自然に存在する宇宙線による影響を排除するため、地下に設置された実験サイトで行われています。HK検出器の概念図。有効体積はSK検出器の約10倍。(c) Hyper-Kamiokande CollaborationLHCでの国際共同実験ATLASに完成した前方ミューオン検出器16

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