神戸大学 理学部・大学院理学研究科 2021
34/44

研究の特色 惑星学専攻は、基礎惑星学講座(地質学・岩石学鉱物学・固体地球物理学・流体地球物理学・惑星宇宙物理学)と新領域惑星学講座(実験惑星科学・計算惑星学・観測海洋底科学)及び連携講座(惑星地球変動史・応用惑星学)からなります。私たちは、個別の専門分野における研究と共に、新しい研究分野を切り開くことに強い熱意を持っています。そのために、世界的な大型プロジェクトを推進する海洋研究開発機構・国立天文台・気象庁気象研究所・宇宙航空研究開発機構や海外の研究機関と連携して研究を進めています。熱い好奇心が集まる惑星学の「ホットスポット」として、特色のあるフロンティア研究を進めて行きたいと考えています。海から、陸から、地球のヒミツを探る 私たちが住んでいる地球は、太陽系のほかの惑星たちとほぼ同時に、同じように形成されました。しかし、現在の地球は、それらと大きく異なるいくつもの特徴をもっています。中でも重要なのは、「プレートテクトニクス」の存在です。海洋プレートが沈み込み、物質や温度の循環が起こるからこそ、生命にとって有害な宇宙線を遮る十分な強度の地球磁場が生まれ、惑星表層を生命活動や水の存在に適した温度に保つことができます。一方で、私たちに恩恵をもたらすその特徴は、地震や火山噴火、海底地すべりによる津波など、大きな脅威ももたらします。私たちは、海洋プレートの沈み込みに伴うさまざまな地質現象に注目した研究を行っています。いわば、「地球はなぜ地球であるのか?」、地球のヒミツを解き明かすための研究を行っています。 研究のためには、重要な2つのアプローチがあります。海洋掘削と陸上の露頭調査です。前者は、日・米・欧が中心となって進めている国際深海科学掘削計画(IODP)であり、私たちは地球深部探査船「ちきゅう」や「Joides Resolution」を使って、まさにプレートが沈み込んで地震や火山、海底地すべりを起こそうとしている場所から直接試料を採取するほか、そこの温度や応力、地質構造を直接観測しています。一方で、海洋掘削は時間もお金もかかるので、なかなか広範囲に展開できません。そこで、これらと同じ現象を経験した、陸上の地質体を3次元かつ広範囲に研究し、それらを比較・検討することが重要です。このようなプロジェクトは、国内外の多くの大学や研究機関と行う必要があり、神戸大学の学生をはじめ、世界中の友人たちと日々研究を行っています。 最近のトピックスは、沈み込み帯の断層運動による「発熱」です。周辺が海水で満たされている環境ではあまり発熱しないだろうと考えられてきましたが、地震時の際に大きくすべる断層運動の摩擦によって発熱することが、海洋掘削によって明らかにされてきました。発熱の温度分布から、どの程度の速度でどのくらいすべったのかという地震学に重要な情報を取り出せるようになりました。私たちの最近の研究では、この摩擦発熱によって断層の構成鉱物が変化することで、断層の摩擦特性が変化することが明らかになりました。その変化は、日本列島を始めとするプレート沈み込み帯の形状に大きな影響を与えることが考えられ、ここをシミュレーションで評価しようとしています。今後も世界中の海や露頭に出かけて、地球のヒミツにすこしでも近づきたいと思います。研究トピックス惑星科学研究センター(CPS)https://www.cps-jp.org 太陽系探査や系外惑星科学の進展によって、惑星科学の研究はいま新たな発展期を迎えています。本センターは人の交流と学術知見の集積を促す場として機能している新しいタイプのネットワーク型共同利用研究所です。研究コミュニティーの共有財産として、国内外の研究所や大学の研究者との密接な連携のもとに、惑星科学の基盤を支える活動を行っています。また、大規模シミュレーションによる計算惑星科学の研究、さらに民間企業と共同での人工知能応用むけプロセッサ開発等の計算科学の研究を進めています。山本 由弦 教授地質学教育研究分野図1. IODPで活躍中の科学掘削船:ちきゅう(左:JAMSTEC)とJoides Resolution号(右:William Crawford, IODP/TAMU)。図2. 掘削によって得られたコア試料を前に、記載・議論している様子(IODP Exp. 370)。図3. 房総半島に露出した約200万年前の海底地すべりを調査する様子。33

元のページ  ../index.html#34

このブックを見る