ABUNDANCE10 神戸大学広報誌「風」Vol. 21 経済学の観点から人口や農業問題を研究しています。特に、計量的な研究をすることが多く、データから客観的な事実を引き出せるところが興味深いと感じています。通説とは異なる結果が出ることもあり、その理由についての議論は尽きません。神戸大学経済学部在学中に受けた山口三十四先生の講義「食料経済論」のインパクトが強く、現在に至るまで農業経済を専門分野としています。 日本の食料自給率を高めるには、農業を持続的に発展させる必要があります。しかし農業の担い手は減少し続けており、高齢化もあいまって農業の未来が見通しにくくなっています。 2014年5月に国家戦略特区「中山間農業改革特区」の指定を受けた兵庫県養父市において、既存農家や学部、修士は神戸大学で学び(山口三十四(みとし)先生に師事)、2004年ハワイ大学で経済学博士号取得。主として日本農業に関する計量的研究を行ってきた。2015年より神戸大学教授。参入企業などへの調査研究を実施しました。特区の規制緩和を受けて農業に参入した事業者は一定の成果を上げており、規模や雇用の拡大意向が強いところが多いという結果でした。既存農家の多くは事業承継への不安を抱えており、農業の持続的成長には企業が農業に参入し、農業の生産性向上、高付加価値化を図る必要があるという結論を導き出しました。 農業の立地環境によってできることは左右されます。平野部では規模を拡大し、効率の良い農業を推進するべきでしょうし、中山間部は棚田など効率が悪く規模拡大が難しい半面、景観や環境、国土保全への効果もあり、保護する必要があるでしょう。また担い手不足を解消するために期待される新規就農者の拡大に向けても、研修などの指導を組織的に進められる企業の農業参入も一つの選択肢であると思います。 専門はラテンアメリカの近現代史。特に“辺境”から見たグローバル・ヒストリーを研究しています。歴史的に見てなぜ今があるか、人の営みの基本である“食”をテーマに、国や地域の具体的なつながりやそこから生まれる歴史や文化を調べています。世界史を理論で捉える研究もありますが、それですべてが説明できるとは思いません。また一般的なグローバル・ヒストリーも含め、見ているのは総じて先進国に軸足を置いた世界です。 食は文化や思想に影響を与えます。冠婚葬祭などあらゆる場面に介在し、何を食べるか食べないかでその人の宗教がわかります。食を起点にすれば、国の自由なつながりを多様な視点で見られます。今、日本では世界中のコーヒーが手に入りますが、日本での生産量はごくわずかです。小国の生産者がいなければ、日本のコーヒー文化も成り立ち得ません。辺境の地から見るこ衣笠 智子 [ KINUGASA Tomoko ]大学院経済学研究科 教授特集3農業の持続的発展を見通す“食”にまつわるデータを読み解く
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