神戸大学広報誌『風』 Vol.21
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11“食”を考えるとき、その切り口は百人百様。生物そのものなど自然科学系の研究もさることながら、人文社会系のアプローチが、“豊かさ”の追求には欠かせない。世の中には“食”に関わるさまざまなデータがあふれている。これらを読み解けば、違う景色も見えてくる。1998年立命館大学大学院文学研究科博士課程修了。2012年より神戸大学教授。途上国から見たグローバル・ヒストリーをテーマに中米諸国を研究。近年は災害時に避難所でも「おいしい食事」を提供しようという取り組みに参加する。とで小国が先進国に与える影響を知ることができるのです。 一方、食が人の営みの基礎であるなら、これを破壊して恐怖や不安、嫌悪を呼び起こす娯楽がホラー映画です。人を捕食し増殖する「ゾンビ」のように、一般的な食の意味を逆転させた要素が数多くあることに気づき、歴史的な視点から映画業界や残酷描写の変遷などについて研究しています。現在、私のゼミには、ホラー研究の中国人院生が2人います。ホラー研究はまだ発展途上なので、彼女たちが第一人者になる可能性があります。私自身も、近々にホラー関連の論文を発表する予定です。2005年広島大学大学院教育学研究科博士課程修了。2014年より神戸大学教授。22年には心の研究の中心地オーストリアにおける心理職制度を調査し、日本における公認心理師制度普及にも尽力している。 食習慣の改善は生活の質(QOL)の充実や健康寿命の延伸につながります。生活習慣病は特定健康診査・特定保健指導が始まる40歳から深刻視されますが、子どもの頃から形成されてきた食習慣を変えるのは容易ではありません。 近年は特定保健指導を担う管理栄養士や保健師らの養成カリキュラムで行動科学の基本的な枠組みを学びます。ただ、生活習慣の改善といった行動の変化を促すような対人スキルはすぐには身につきません。経験を踏まえた実践的な学びが必要です。このため心理教育など習慣の改善に有効なプログラムの開発につながる実践的な研究を長く続けてきました。この成果を「食習慣改善支援ツール」として発信しています。健康施策に積極的な兵庫県と専門職向けの研修を開いているほか、2022年度からは健康ビッグデータの活用でも連携が進んでいます。 ウェル・ビーイング(善き生)と生活習慣に研究の軸を置く中で、“食”は特徴的なアプローチの一つです。何事にも行動を促すには本人の「動機付け」が大切ですが、大学生を対象にした調査では、幼少期に食事作りに参加したと回答した人ほど、このクオリティーが高い傾向にありました。これを受け、5年前から子育てするお母さんと食育活動の取り組みも始め、実践の中でも「経験して良かった」という声を得ています。食は心にさまざまな影響を与えています。心の研究者を含め心の支援にかかわるもっと多くの専門職にこの領域に入ってきてほしいですね。小澤 卓也 [ OZAWA Takuya ]大学院国際文化学研究科 教授加藤 佳子 [ KATO Yoshiko ]大学院人間発達環境学研究科 教授新しい視点から見る世界行動科学を食習慣の改善に

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