神戸大学広報誌『風』 Vol.21
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5複数の地点で観測定点を変えざるを得なくなったという。 藻場が失われる「磯焼け」は、海藻や海草の成長・繁殖を妨げる赤土の流入や、ウニや魚などによる食害など、さまざまな要因で誘発される。ただ、日本の沿岸域はこの100年間で海水温が1-2℃上昇。水温が上がると魚介類の活性が高まり、食害が起こりやすくなる。また、高い水温を苦手とするコンブなどは冬に成熟しにくくなり、また夏場はより早い段階で寿命を迎えるようになる。水温の上昇が特に大きな影響を与えているのは否めない。「この50年間で瀬戸内海のアマモ場はそれ以前の3分の1-4分の1に減少し、海藻の藻場も大きく減っています」。 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は今後も最大4℃の海水温の上昇を予測する。「今、サンゴが北上し、藻場がサンゴに置き換わっています。ただ、海に吸収されるCO2が増えて海水の酸性化が進むとサンゴも生息できません。サンゴ礁は本来多くの魚が棲み着き、生物多様性・生産性の高い場所ですが、今後何十年か先、日本近海は亜熱帯に近い水温になるにもかかわらず、小形の海藻しか生えない貧しい海になるかもしれません」。 地球の表面の3分の2は海が占める。温暖化の原因として、やっかい者扱いされるCO2は、水に溶けやすく、海中に吸収されると海藻や海草、植物性プランクトンの光合成に使われ、一部はこれらの内部に固定される。これらの生物の死後、CO2は再び大気中に戻るが、藻場の消失が続けば、これが増加。温暖化が加速する。「きれいな海でも海底に光が届く水深150メートルまでしか光合成はできず、透明度が低いところでは数メートル程度になることもあります。地表の3分の2が海だと言っても、CO2を吸収し、魚の餌ともなる海藻草類が生育する面積は数%にもなりません」。海の資源は面積ほど豊富ではないと、川井教授は声を大にする。 2009年、国連環境計画(UNEP)などが、報告書「ブルーカーボン」で、海藻草類やマングローブ、塩性湿地の植物など海の生態系に固定されるCO2を「ブルーカーボン」と呼ぶことを提唱。陸域生態系による「グリーンカーボン」と区別することでその重要性を指摘した。これを受け、1983年北海道大学大学院理学研究科博士課程修了。神戸大学内海域環境教育研究センター教授、センター長を務め、2020年名誉教授、特命教授。いまも現役のダイバーである。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■川井 浩史 [ KAWAI Hiroshi ]内海域環境教育研究センター 特命教授注目されるブルーカーボン

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