6 神戸大学広報誌「風」Vol. 21六甲台キャンパスにある「海藻類系統株保存室」は世界中の藻を収集、保存している陸地の森林減少を上回るスピードで消失するブルーカーボン生態系を守る国際的な合意も形成された。しかし、2013年に出されたIPCCの報告書で藻場は国連気候変動枠組条約で報告が義務づけられている温室効果ガスインベントリには含まれなかった。「海藻は吸収してもすぐに分解してCO2を放出すると考えられていました」と川井教授は解説する。 転機は2016年。英科学雑誌「Nature Geoscience」で海藻由来のCO2貯留量を推定した論文が発表されると藻場に大きな注目が集まった。「コンブ類などの海藻が光の届かない深海に沈むことで、固定されたCO2の10%程度が長期間貯留されていると推定されたのです」。 マングローブの生育する地域が限られている日本では、藻場の維持や拡大がブルーカーボンに対するアプローチとして現実的だ。藻場によるCO2固定は、今のところ温室効果ガスインベントリに含まれないが、SDGsの観点から国や自治体、企業もブルーカーボンに高い関心を寄せている。技術研究組合が地域の藻場のCO2吸収量を認証して、クレジットを売買する仕組みが作られ、各地で活用が広がっている。一方で、ブルーカーボンの貯留を目的とした新たな藻場の形成には課題もある。「日本の沿洋上風力発電設備を利用したブルーカーボンの貯留岸の多くはすでにさまざまな用途で使われており、新たに大規模な藻場を作る余地はほとんどありません」と川井教授。そこで提案するのが、浮体式の洋上風力発電設備などと融合する戦略で、風車の間に浮力体を並べて、コンブ類などを育て、一部は食品や肥料として回収し、残りは深海に沈めて貯留する。「生態系への影響を十分調べる必要がありますが、沖合なので漁業への影響を軽減でき、場所によっては藻場による生態系サービスも期待できます。深海を含む広い排他的経済水域(EEZ)を持つ日本の特性を生かした取り組みです」。 神戸大学内海域環境教育研究センターには、世界最大規模の海藻類系統株のコレクションがある。約300種、約1100系統を収集・保存しており研究用だけでなく、産業用にも提供している。牛などの家畜のゲップに含まれるメタンは温暖化をもたらす大きな要因の一つだが、飼料に混ぜることでメタンの発生を抑制することのできる海藻に世界的な注目が集まった。さまざまな企業がサプリ開発をはじめた頃、この機能を持った海藻の培養株を提供できたのは、世界でも神戸大学だけだったという。川井教授は23年間センター長を務め、退いたあとも特命教授としてこれらの培養株の管理にあたっている。「目的に応じた海藻種の選定や育て方などのコンサルティングも可能です。培養している株を養殖やブルーカーボンなどに活用してもらいたいですね」。さまざまな可能性を秘める海藻。これをうまく利用する取り組みの拡大が期待される。日本に最適、藻場のブルーカーボン世界最大規模のコレクション
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