神戸大学 理学部・大学院理学研究科 2022
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 数学科と数学専攻では、解析・構造・応用の3つの講座によって、現代数学の諸分野を幅広くカバーし、研究しています。純粋数学では代数学・幾何学・解析学、応用数学では確率論・計算数理・組み合わせ数理などの研究を行っています。 これらの分野を個別に専門的に研究するとともに、相互に有機的なつながりを見出すことで、分野の枠を超えた横断的な研究も行われています。太田 泰広 教授関数方程式教育分野佐野 太郎 准教授代数学教育分野Fano多様体とCalabi-Yau多様体の分類 高校の数学で放物線や円、球面などの図形を習います。例えば円はx2+y2-1=0、球面はx2+y2+z2-1=0という式で定義されます。このように幾つかの多項式が0になるという条件で定義される図形は「代数多様体」と呼ばれます。 17世紀にデカルトが座標平面を考えて以来、代数多様体は多くの研究がなされてきました。目標の一つとして「全ての代数多様体の分類」があります。座標平面内の2次曲線や3次曲線の分類は古典的ですが、3次元以上の空間に入った曲線の分類は完全には出来ていません。球面など図形自体が2次元以上になると代数多様体の種類は膨大で、現在でも分類の目処は立ちません。 代数多様体の分類において、Fano多様体、Calabi-Yau多様体、一般型多様体、という3つの「核」が重要です。Fano多様体は2次曲線や3次曲面などを含む比較的理解しやすい対象で、3次元Fano多様体は1980年代に105種類に分類されました。Calabi-Yau多様体は3次曲線や4次曲面を含み、3次元でも分類は未完成ですが、数論や数理物理など幅広い分野との関連もあり魅力的です。私はこれまで「Fano多様体の変形」を主に研究してきましたが、最近は「Calabi-Yau多様体の種類の数は有限か?」という問題にも興味を持ち研究しています。代数多様体は他にも微分幾何や可積分系、また暗号理論など他分野との関連もあり、話題には事欠きません。研究の特色研究トピックス非線形可積分系の応用数理 線形代数、線形応答、線形計画など、「線形」がつく言葉はたくさんあります。簡単に言えば線形とは、出力の大きさが入力の大きさに比例することを意味します。一方、入力と出力の間に比例関係(線形関係)がない場合には「非線形」と言います。私たちの身の回りにあるものや現象のほとんどは非線形系や非線形現象です。例えば、海岸に打ち寄せる波の運動や道路を往き交う車の流れなどは非線形な方程式で記述され、ある時刻での状態が分かってもその後の変化を予測することは困難です。一般に非線形系は線形系に比べて解析が難しく、通常は限定的な知見しか得られないのですが、可積分系と呼ばれる非線形系の場合には、様々な数学的手法を用いることによって具体的な結果を導くことが可能です。 私は非線形可積分系の理論を、物理学や工学の様々な問題に応用する研究を行っています。左下の図は、水面波にわずかな擾乱が加わることによってエネルギーの局在構造が現れた状態を描いたもので、入力の微小変化が非線形効果によって出力の大きな変化をもたらす現象を捉えています。右下は流体中の定常渦列の図で、可積分な渦度方程式の厳密解から渦度分布を求めることができています。最近は、ラグランジュ座標の離散化に基づいた高精度数値計算スキームの構成について研究しています。具体的に厳密な結果が得られることに加え、様々な応用があることはこの研究分野の魅力の一つとなっています。

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