神戸大学 統合報告書 2024
31/60

「知」の創出特定の材料の大きさをナノメートル(10億分の1メートル)スケールで制御することで、光に対する応答をコントロールできるようになり、例えば、自由に色を決めることができます。このように、光をナノスケールで自在に制御する研究分野をナノフォトニクスと言います。これにより、通常色は物質ごとに異なりますが、ナノフォトニクス技術により同じ物質を用いながら全く異なる色に変化させることが可能になります。この技術分野では、金属や誘電体のナノ構造が持つ光学的共鳴現象を利用した「ナノアンテナ」に注目が集まっています。私はこの分野で独自のナノアンテナ材料を開発し、革新的な光学デバイスの実現に向けた研究を進めています。さらに環境や生体への配慮を重視した持続可能な社会の実現を目指したナノ材料・デバイスの開発にも取り組んでいます。今後は、国際的な共同研究を通じて、物理・化学を超えた広範な工学分野で新しいナノ材料の開発や計測技術、光学評価技術などの研究を推進し、異分野融合的な国際協力システムの構築を目指します。当グループは、下水や生ゴミから生成されるバイオガスの主成分であるメタンを利用し、光を使い化学品を合成する技術「光オン・デマンド合成法」を開発しました。メタンはCO2の約25倍の地球温暖化係数を持つ温室効果ガスであり、その削減が強く求められています。メタンを光化学反応でホスゲン(超高反応性物質)に変換し、それを即座に次の化学反応に用いることで、安全・安価・簡単・低環境負荷な化学品合成を実現しました。メタンを使い、塩素と酸素のみで安全で効率的に有用化学品へと変換するため、温室効果ガスの削減に貢献します。この技術を実用化するため、神戸大学発のスタートアップ「光オンデマンドケミカル株式会社」を設立し、これまでに国内外で40件以上の特許を取得。特に、従来の化学品生産が抱える環境負荷やコストの課題を解決する可能性を持つ技術として注目されており、SDGsやGXへの貢献が期待されています。今後は、神戸市等と下水処理システムの革新などを通じて、持続可能な社会実現に向けたさらなる展開を目指します。30光を操る材料で、持続可能な社会の実現へ杉本 泰 准教授(工学研究科/高等学術研究院 卓越准教授)地球に優しい光ものづくり技術津田 明彦 准教授(理学研究科)

元のページ  ../index.html#31

このブックを見る