4 神戸大学広報誌「風」Vol. 22特集1超伝導から水素へつながる研究 日本は水素研究で世界をリードしてきた。2017年には世界に先駆けて水素基本戦略を策定。水素を新エネルギーの選択肢として示した。今年5月、水素社会推進法が成立するなど国内における水素活用への期待はますます高まる。だが、水素社会実現に向けて乗り越えるべき学術・技術的、また社会的ハードルはまだ多く残される。これらを打開し、新しい世界を作る挑戦が、神戸大学深江キャンパスで進む。 神戸大学水素・未来エネルギー技術研究センター設立への流れは、1969年に神戸商船大学(現・神戸大学海洋政策科学部)で始まった極低温の液体ヘリウムを作る研究まで遡る。マイナス269℃の液体ヘリウム(さらに低温で超流動になる)や超伝導の応用研究から始まり、超伝導磁石によって発生する磁場で船を動かす超伝導電磁推進船「ヤマト1」の研究開発に結実した。1995年の阪神・淡路大震災後には、電磁推進船とは逆の原理を使った海流MHD(電磁流体力学)発電の実証にも取り組んだ。態の約800分の1になる水素は輸送に有利で、燃焼しないヘリウムと違い、エネルギー媒体としての高いポテンシャルがあった。 武田教授らは超伝導を応用する立場から水素の研究に着手した。この成果の一つが岩谷瓦斯などと共同研究した「液体水素用超伝導液面計」だ。液面を高精度に測ることができ、将来の水素社会を支える基盤的な技術になる。すでに製品化もされており、輸送や供給販売時、液体水素を積んで走る燃料電池トラックなどの液量管理で使用が見込まれている。 神戸大学の水素研究は発展を続け、2015年、液体水素専用実験棟が完成した。この施設では貯蔵試験や輸送時の振動の影響など、水素社会で求められる多様水素社会を支える基盤技術 そして2004年、ヘリウムから水素へと研究対象が変わった。「将来、水素エネルギーが必要になる、液体水素が次の研究対象になる、と20年ほど前から考えていました」と武田教授は振り返る。沸点はマイナス253℃。液体状態では体積が気体状武田 実 [ TAKEDA Minoru ]水素・未来エネルギー技術研究センター 教授1984年神戸商船大学卒、1993年大阪市立大学大学院理学研究科(博士)取得。2006年神戸大学教授。原子力研究を志し商船大に入学するも低温物理学の面白さに魅入られ、超流動・超伝導の世界に。積み上げてきた研究成果が技術の礎になります 気候変動の拡大に、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)の実現が急がれる。カギを握るのが究極のエネルギー源とも言われる「水素」。燃焼時に二酸化炭素(CO2)を出さず、さまざまな資源から得られる。神戸大学は2023年11月、「水素・未来エネルギー技術研究センター」を設立。将来を見据えた研究に取り組んでいる。研究をつないで未来をつくる
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