神戸大学広報誌『風』 Vol.22
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19692017201520232021再生可能エネルギー技術5国内の大学では唯一の実験棟カスケード式He液化機自作液体水素用超伝導液面計研究海流MHD発電研究等極低温実験棟完成→超伝導電磁推進船の研究等な実験が進められている。2017年には神戸大学が当時所有していた練習船「深江丸」に液体水素タンクと実験装置を搭載し、航海しながらデータを取得。液体水素の海上輸送実験に世界で初めて成功した。 こうした水素研究に加え、センターにはもう1本の源流がある。洋上風力を中心とした再生可能エネルギーの研究だ。長く気象モデルや衛星観測データによる風況解析などに取り組み、風況予測を実現した。開発した洋上風況マップNeoWinsは、NEDOにより2017年に公開され、洋上風力開発に欠かせないツールとなっている。さらに、神戸大学発ベンチャーのレラテックなどとともに「むつ小川原洋上風況観測試験サイト(青森県六ケ所村)」を整備。企業などが広く利用でき、風況観測機器の精度検証などが可能だ。こうした施設は日本初であり、風力発電の普及に貢献している。深江丸・液体水素海上輸送実験液体水素専用実験棟完成阪神・淡路大震災海事科学研究科 海洋気象学研究室 →メソ気象モデルによる風況解析(WRF)の企業に使ってもらう。学部の垣根も越え全学の知見を深江キャンパスに集める。「『深江キャンパスオープンラボラトリー』構想をまとめました。来年度中の始動が目標です」と武田教授は意気込む。さらに蒸発する水素を回収して学内に電力供給する「カーボンニュートラルキャンパスモデル」も深江キャンパスで実現を目指すという。 個々の基盤技術が完成した暁には、いかに社会実装していくかが重要になる。技術を確立するだけで水素社会は実現しない。燃料電池車(FCV)普及に向けて動きつつも水素ステーションが少ないなど、技術の進歩に対して社会の動きは遅い。 現在のセンターは再生可能エネルギー技術、水素エネルギー技術、マルチエネルギー技術の三つの研究部門で構成されている。武田教授はこれらに加え、社会システム評価技術研究部門を拡充し、その上にオープンラボ・国際規格化推進部門を設ける考えだ。「まだ社会的な基盤が整っていませんが産学連携によって仕組みができれば、現状を打ち破れます」と力を込める。 この動きを加速させるため、水素・未来エネルギー技術勉強会を立ち上げた。現在、川崎重工業や兵庫県など産官学約洋上風力発電/洋上風況マップ研究開発→NeoWins開発公開水素技術勉強会 産官学連携コンソーシアム活動むつ小川原洋上風況観測試験サイト(稼働中)80会員が意見交換しながら、どう研究開発し、どう社会実装していくかを議論している。国際規格化に向けて世界にどう提案していくかも重要なテーマの一つだ。これらを通して、産業界のコンソーシアムを構築し、社会に展開する。2030年には川崎重工業の液体水素タンカー大型化の計画もあり、武田教授は「この頃には体制も整っているはずです」と語る。(2023年11月発足)水素・未来エネルギー技術研究センター産官学連携で得られるもの 水素・未来エネルギー技術研究センターは企業との連携を重視する。液体水素を使った技術開発に実験室を開放し、多く過去のすべてが未来の礎に 武田教授は神戸商船大の出身。「常に新しいものに挑戦する」、「ないものは自分たちで作る」という神戸商船大の気概が研究とともに神戸大学に連綿と受け継がれている。ヘリウム液化機の開発も当時、調達が困難だった液体ヘリウムを自前で用意するためにスタートした。海流MHD発電など基礎研究段階で止まっているものもあるが、こうした研究を礎に次に進んできた。 「水素をいかに作り、貯蔵し、輸送し、どう使うか。社会システムとしてどのように最適化して管理していくか。グリーン水素(製造時にもCO2を排出しない水素)の研究拠点として、水素をキーワードに総合的な観点でカーボンニュートラルな社会実現につなげていきます」。武田教授の目は未来を見据える。水素エネルギー技術200419951976水素社会を支える基盤技術の変遷

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