6 神戸大学広報誌「風」Vol. 22特集2神戸から科学を支える人材をつながる次世代 文部科学省科学技術・学術審議会の資料によれば、日本以外の主要国(米、独、仏、英、中、韓)で博士号取得者は右肩上がりに増えている。日本だけが減少・横ばい傾向。国は科学研究に対する高校生の意欲を育む施策を進めるが、より早い段階から育成に取り組む必要性が指摘される。「神戸みらい博士育成道場」のコーディネーターを務める蛯名邦禎名誉教授は「サイエンスに取り組んだり、研究者や起業家になったりする精神は、大学に入って突然生まれるものではなく、幼少期から養っていく必要があります」と指摘する。 小学生ごろまでの子どもたちは、さまざまなことに疑問を持つ。ただ、進学とともに楽しかった“学び”は入試を目標とした“勉強”に変わり、アクティブな思考が失われる。近年、文科省が学習指導要領で必修にした「探究活動」は、自ら課題を設定する力を強く求める。「いろんなことに関心や疑問を持ち、日頃から表明する習慣がなければ、課題設定はできません」。 そこで2022年に立ち上げたのが、小学5年生から中学3年生までを対象にした「神戸みらい博士育成道場」だ。神戸大学は2017年から高校生を主な対象とした人材育成プログラム「ROOT」を実施している。科学分野で強い好奇心や探求心を持つ高校生らの力を伸ばし、世界で活躍する科学者や技術者を育てるのがROOTの目的。道場はより早い段階で子どもたちの科学的視野を広げる。これらは特別選抜や大学と高校、小中学校との連携などを網羅的に扱う「みらい開拓人材育成センター」が運営しており、大学が関与する効果的な科学教育の枠組みが注目を集めている。とプログラムの狙いを明かす。 天体観測で宇宙の広さを知り、大型放射光施設「SPring-8(兵庫県佐用町)」でミクロの世界を見る。自然の広がり、そして空間的、時間的な奥行きを体感する。美術鑑賞・制作にも取り組み、「収束思考」と「拡散思考」という研究に必要な対極的な思考を養い、実験科学のプロセスを体験する。見えている現象の背後にある法則に想像をめぐらし、仮説を立て、それを実現する。 第一段階は40人のセッション。この中から選抜された10人が、第二段階ではより高度な課題に取り組む。受講生が提案する課題は研究者には思いつかないようなものばかりだ。経験を経て、受講生には大きな変化が現れる。「さまざまなことを見丹波竜の化石発見時の話に聞き入る子どもたち一つの世界を見るさまざまな視点 「好奇心を発揮させ、問いを出せる子を育てる」―。神戸みらい博士育成道場は一般的なサイエンス教室や体験授業とは異なる。「経験を自分の中に定着させ、世界観をつくるところまでを目指します」と蛯名名誉教授。受講生は化石発掘や顕微鏡観察などさまざまな分野を体験する。「実はそれらの間につながりがあって、一つの世界をいろいろな視点から見ているだけなんだということを感じ取ってほしい」 かつての技術立国・日本がイノベーションで後れをとるようになった。研究者数も論文数も減り、国際競争力は低下する一方だ。背景には科学技術イノベーションの基盤となる人材の不足、特に博士課程へ進む学生の減少がある。 2022年に始動した「神戸みらい博士育成道場」は、小・中学生を対象に探究心を引き出す学びを展開。日本の次世代博士人材に必要な「未来を描く力」や「未来を切り拓く力」を育てている。未来の研究者を育てる
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