神戸大学 統合報告書 2025
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知の創出人材の創出環境の創出財の循環TO PICS小澤 誠一 教授(数理・データサイエンスセンター センター長)内山 愉太 助教(人間発達環境学研究科)【令和7年度「優秀若手研究者賞」受賞】神戸大学 統合報告書2025国立研究開発法人情報通信研究機構は本学とEAGLYS株式会社に委託し、りそな銀行他3行と共同で、プライバシー保護連合学習技術「DeepProtect」の有効性を金融分野において実証しました。これは、非合法ビジネスに関わる資金洗浄対策の一環として、犯罪に利用される口座を特定することを目的に実施しました。4銀行の顧客口座データを用いながら、それぞれの銀行のデータを共有することなくAIに学習させると、各行でデータ項目にばらつきがあるため使用できないデータが生まれ、検知制度が低くなります。情報を効果的に活用できる新たなアンサンブル学習を活用した結果、従来の個別学習モデルと比べて適合率が向上し、再現率95%超という高精度な検知を達成しました。また、AIによる検知を回避する犯罪者の試みに対し、検知の頑強性を向上させる手法を本学大学院生が開発し、高度AI人材の育成にも貢献しています。 都市計画や建築の、自然環境との関係性と健康・社会格差とのつながりを明らかにする研究を進めています。質問票調査やGIS解析を通じ、公共緑地や水辺へのアクセスに格差があり、それが健康や幸福の不平等と結びつく実態を明らかにしました。特に困窮度の高い地区では自然体験が住民の健康に大きな効果を持ち、都市化や経済状況に応じた緑地整備や自然体験の充実が健康格差の縮小に寄与することを示しています。さらに、農地や森林がモザイク状に広がる里山環境が自然体験の格差を緩和する場として有用であることを特定したことも成果の一つです。本研究は都市計画学、環境経済学、生態学、社会疫学、心理学などの異分野連携に基づいており、都市に暮らすすべての人が自然と関わり健康で豊かに生きるための具体的な施策立案に貢献します。今後はビッグデータや時系列分析を取り入れ、日本で得られた知見をアジアの都市へと広げて比較し、文化や環境に即した政策提言を目指しています。※卓越した業績を挙げた若手研究者の将来の研究リーダーとしての活躍を期待し、若手研究者らの活性化を図るため、その研究結果・積み重ねに対して表彰を行う「優秀若手研究者賞」を毎年度実施しています。この技術は、複数の個人や組織がもつ機微なデータを互いに直接共有しなくても、一つのAIモデルを協力し合って学習するスキームで、広範囲な応用が期待されています。今後は、本実証実験の成果を踏まえ、高度化を進めるとともに、検知精度の向上を図り、不正取引検知業務への実装を目指しています。プライバシー保護連合学習技術を活用したマネーロンダリング検知モデルの開発実証実験環境格差が招く健康問題解消に向けた異分野連携のアプローチ36h u m a n r e s o u r c e s

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