神戸大学 環境報告書 2025
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二酸化炭 素の光 還元を可 能にする 新 規 触媒系 の 開発 理学研究科 教授 松原 亮介図1.希少金属元素を用いないCO2光還元反応図2.当研究室の光反応実験の様子有する分子の中で最も酸化が進行した状態で、エネルギー源としての価値はなく、さらに地球が宇宙に廃棄するべき赤外 18世紀の産業革命以降人類活動が活発となり、エネルギー源の化石燃料が大量に消費され、代わりにその酸化生成物であるCO2が大量に放出されています。そのため、現在人類は「化石燃料の枯渇」、「CO2大気中濃度の増加による地球温暖化」という二つの互いに関連する大きな問題に直面しており、その対応が緊急で求められています。ここでエネルギー源としての炭素化合物について簡単に述べますと、炭素から電子を奪われる酸化が進行するほどエネルギー源としての価値は下がり、逆に電子を受け取る還元が進行するほどエネルギー源としての価値は上がります。CO2は一つの炭素原子を線を吸収してしまうため地球温暖化の要因ともなってしまいます。 二つの上記課題を同時に解決するのが植物の光合成なのですが、森林伐採も相まって現在は人類活動による負の影響が植物光合成の能力を大きく上回っています。そこで注目されているのが人工光合成であり、現在世界中で研究されています。しかしながら、報告例の多くが遷移金属など高価で希少な金属を触媒の構成元素として含む反応であり、世界規模で永続的に運用するための持続可能性に大きな懸念が残ります。 我々は近年、遷移金属などの希少金属を一切用いず、太陽光をエネルギー源として用いるCO2光還元反応を開発しました(図1)。この反応では、我々の研究室で独自に開発した二つの有機分子が触媒として機能しています。生成物はCO2から還元段階が一つ進んだギ酸です。ギ酸はメタノールと並び次世代の炭素資源として注目されている分子で、今回開発した反応は、これから増加するであろうギ酸の需要を支える重要な反応と言えます。実際の研究室では、天候に左右される太陽光を用いると実験結果の再現性に問題があるため、自作のLED光源を使用して実験していますが(図2)、晴れた日に反応フラスコを建物屋上で放置すると反応が問題なく進行することを確認しています。 本反応の課題は、還元剤としてビタミンCを用いる必要がある点です。本反応を地球規模に展開した際、大量のビタミンCを使用するわけにはいきません。植物光合成と同じく、水を還元剤として用いることが理想的であり、研究室の学生さんと共に現在その反応の開発に鋭意取り組んでいます。教員ホームページ:https://www2.kobe-u.ac.jp/~ryomatsu/index.html環境に関する教育研究とトピックス環境に関する研究

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