神戸大学 環境報告書 2025
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環 境 ・ 気 候 問 題 と 世 界 紛 争 内野 隆司所  属:神戸大学環境保全推進センター センター長神戸大学大学院理学研究科 化学専攻 教授専門分野:半導体、磁性体、超伝導体およびその複合体の合成と物性研究道な取り組みが、世界紛争により一気に覆されないことを切に祈る次第です。 新型コロナウィルスの感染者数の減少を待っていたかのように、世界では紛争や武力衝突が頻発しています。1989年にベルリンの壁が崩壊した時、当時、大学院生だった私は、もうこれで世の中からは戦争や紛争が消え、平和な時代が長く続くのではないか、という漠然とした期待を抱いていました。しかし、その期待は、2001年9月11日、アメリカにおける同時多発テロ事件を境に潰えました。その後のアメリカのイラクやアフガニスタンへの軍事行動のみならず、近年は、ロシアのウクライナ侵攻、ガザ・イスラエル紛争、ミャンマー内戦など、戦禍の報道を見聞しない日はほとんどありません。フランスの歴史学者エマニュエル・トッド氏は『第三次世界大戦はもう始まっている』とも指摘しています。 このような世界的な紛争は、歴史的、宗教的、経済的な要因が複雑に絡んだ末に起きたものであり、その原因の特定と解決は容易ではありません。しかし、紛争や戦争が、「自国(自身)が危険にさらされている」という恐怖心にあおられたことによるものだとすると、近年の気候変動による食糧危機や自然災害の多発も、間接的に紛争を引き起こす引き金になっているのではないでしょうか。気候変動と紛争との相関については、現在のところ専門家内でも意見が分かれているようですが、4 ℃の気温上昇が10から50 %の確率で紛争の増加をもたらしうるとの報告もあります(K.J.Mach,Climateasariskfactorforarmedconflict,Nature(2019)571,193)。 気候変動が紛争の引き金になっているかどうかはともかく、戦争が環境破壊を引き起こすことは言を俟たないでしょう。戦禍による建物や自然環境への直接被害はもちろんのこと、武器の開発や製造のため、莫大なエネルギーが費やされています。戦争は何も生産せず、単に、生命を奪い、モノを破壊するのみです。そのあとには、消し去り難い精神の苦痛と共に、大量の廃棄物が瓦礫となって残されます。日常の省エネやゼロカーボンに向けた地環境保全推進センター センター長メッセージ

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