神戸大学大学院 国際文化学研究科 2024-2025
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研究科への招待国際交流CoursesnvitationQ&AI松元 実環さん (博士後期課程3年)神戸大学国際文化学研究科博士前期課程修了研究テーマ:戦後日本の「性」教育福島 可奈子さん(2019年度博士後期課程修了)ブリュッセル自由大学哲学・文学研究科修士課程修了2018-2019年度日本学術振興会特別研究員DC2研究テーマ:戦前日本の映像文化史(幻燈・玩具映画・小型映画)現在、日本学術振興会特別研究員 PD、武蔵野美術大学非常勤講師Graduate School of Intercultural Studies|5 Japanology所属学生からのメッセージ田中 やよいさん (博士後期課程3年)大阪市立大学文学研究科前期博士課程修了研究テーマ:1943年鳥取地震に見る災害アーカイブの近代史修了学生からのメッセージ谷口 紗也さん (2022年度博士前期課程修了)研究テーマ:「世阿弥著『風姿花伝』における美学的キーワードの考察─英訳・日本語現代語訳比較を通じて─」現在、シオタニ株式会社勤務 私は、災害の記録がどのようにアーカイブ(保管、利用、伝達)されていくのか、1943年鳥取地震の事例を中心に研究しています。近年、大規模な災害の発生により、過去の災害記録が見直され、学際的に扱われています。そうした過去の災害記録は、「何を記録しようとしたのか」という点に、発災当時の社会状況などが反映されます。1943年鳥取地震はアジア太平洋戦争期に発生し、東南海地震(1944年)や三河地震(1945年)とともに「戦争に隠された」と評されてきました。私は、当時の社会における総力戦体制の影響に着目して、公文書や新聞、雑誌などの分析を行っています。そのことを通じて、災害アーカイブが社会との関係でどのように形成されているのか、検討していきたいと考えています。 進学にあたっては、いくつかの懸念がありました。大学院修了から数年経ち、研究テーマも新たに着手し始めたものであること、現住地と大学が離れていること(片道4時間程度)、就業していることなどです。受験情報を集めるなかで、こうした懸念について「どのようにすれば実現可能になるか」という姿勢で対応していただいたことや、研究科案内(この冊子です)でさまざまな立場の院生が所属していることを知り、この研究科を選びました。 研究テーマについては、当初、研究計画書を作成した時点では、展望できていない部分がありました。しかし、ゼミやコース指導を受け、ほかの院生の研究報告を聞く機会を得たことで、自分の研究テーマに対して多角的な視点を持つことができたように思います。通学には少し時間がかかるのですが、ゼミの日程や時間を調整することで、参加できています。 なお、2020年度は大学に行くことができませんでしたが、同期型オンライン形式で、ゼミ、コース指導、コロキアムが実施されました。とくに、ゼミはオンライン化によって参加する機会が増え、論文指導や他の院生の報告を聞く時間があったことで、孤立感なく研究を続けられました。学修環境の変化のなかで、大学院に所属していることを改めて意識した年になりました。文学研究科の教育・研究内容との違いは何ですか?国際的な視野から教育・研究を行っています。また、文学研究科では扱われることの少ない学際的、横断的研究分野や研究テーマを積極的に取り上げています。 室町時代に能楽を成立させた世阿弥は、彼の人生のうちで20冊あまりもの能楽論書を執筆しました。私の研究テーマは、そんな世阿弥が現代に残した能楽論書のひとつである『風姿花伝』の翻訳比較から、世阿弥の美的キーワード「位」に関する解釈を考察することです。 この課題は野上豊一郎の「能の伝統的な研究は、外国人の眼を持って見直し、外国人の頭を持って考え直すところから始めなければならない」という主張から出発しています。また、誰かの言葉を自分の言葉で捉え直し、それらを出力する「翻訳」という行為には、異言語間は勿論、同一言語内での言い換えにおいても多かれ少なかれ翻訳者自身の解釈が織り交じるという特徴があります。これらのことから、『風姿花伝』に登場する美学的キーワードが海外の能楽論研究者にどのような解釈が成されているのか、また現代語訳と英語翻訳ではどのような差異があるのか、こうした疑問点を世阿弥能楽論である『風姿花伝』の現代語訳と英語翻訳を比較するという手法で調査していくことを目指しました。 大学院でのほとんどの講義は少人数制であり、ディスカッションやプレゼンテーション中心の能動的学習が魅力の一つだと思います。専門だけでなく国籍やバックグラウンドの異なる仲間と自身の研究テーマに絡めた議論を交わすことにより、充実した学生生活を送ることができました。仕事を持ちながら教育課程を修了することができますか?これまで在職中の院生に対しては、5、6時限目を開講するなどの対策を取ってきました。事前にコース教員と相談されることをお勧めします。なお、博士前期課程の学生の場合、長期履修制度を申請すれば、2年分の学費で最長4年まで修了年限を延ばせる場合があります。 わたしは、戦後日本の性教育である「純潔教育」について研究をしています。敗戦とそれに伴う占領によって様々な新しい制度が作られる中で、特に子どもや若年層の性的逸脱を問題視して開始されたのが純潔教育です。その内容は現在の性教育の基礎となりつつも、より幅広く、時には実践的な側面を持つのが特徴です。 純潔教育に関する研究は、現在の性教育への関心を発端とするものが多く、加えて女性の人権問題への関心に基づくものが多く見られます。そこで、わたしは男性を対象にすることで、純潔教育をより体系的に捉えることを目指しています。具体的には、当時の教科書や教育雑誌などを集めたり、実際に純潔教育に関わっていた方にインタビューしたりすることで、これまであまり注目されてこなかった観点から研究対象を捉え直す試みを行っています。 大学院では、さまざまな専門分野の先生方の授業を受けることができます。さらに、日本学はコース発表の機会も多く、領域を渡って多面的なアドバイスを受けられるなどの充実したサポート体制が魅力です。また、そこで学ぶ学生の研究対象もさまざまであるため、自らの視野を広げながら専門性を高めていくことができる環境で、充実した研究生活を過ごすことができています。 現在わたしたちが当然のごとく毎日見る「映像」は、人々がいつ発見し、文化としてどう育んできたのでしょうか。戦後にテレビなどの電子機器が流通するまで、映像とは暗闇のなかに映し出す光のイメージでした。私が専門とするのは、日本人が西洋から輸入された様々な映像機器(光学装置)と出合い、自家薬籠中の物とする明治時代から戦前までの映像文化史です。そのなかでも博士後期課程では、プロフェッショナルによる映画作品ではなく、無名のアマチュアや子供が家庭や集会などで楽しんだ映像文化を、三時代の流行―明治期の幻燈、大正・昭和初期の玩具映画、昭和初期の小型映画―から掘り下げて研究しました。それにより従来の映画史研究では見過ごされてきた、日本の映像産業文化の多様性と技術的な連続性を明らかにしました。 私の研究では膨大な史料の精査が必要であったため、ときには研究過程で五里霧中になることもありました。しかし日本学コースでは、少人数制に加えてコース発表の機会が多く、毎回様々な研究領域の教授陣から具体的なアドバイスが得られたため、狭隘化しがちな視野を正しながら研究テーマを深めていくことが可能でした。また学年ごとに段階的な論文の提出が必須であったため目標が立てやすく、博士論文完成に向けて着実に執筆することができました。また在籍中に、神戸大学の協定校であるパリ・ディドロ(第7)大学へ交換留学し、シネマテーク・フランセーズなど現地の博物館での調査や研修にも参加しました。日本とフランス、映像と他芸術との相関関係から、理論研究だけにとどまらない実践経験を積むことができたのも、国際文化学研究科・文化相関専攻・日本学コースならではの魅力だと思います。 博士号を取得した現在、私自身も学生を指導する立場です。これまでご指導下さった先生方のような的確な指導ができているのか自問自答の日々ですが、博士後期課程で学んだ理論と実践が、現在の研究生活の何より大切な基礎になっていることは間違いありません。

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