力学は物理の基本。大学に入って初めての物理専門科目です。父の背中を追いかけて 「お父さんのようなコンピューターの博士になりたい。」小学生の頃に抱いた憧れが私の原点です。はじめは漠然とした憧れでしたが、中学生の頃には物理学の研究者になりたい、高校生の頃には素粒子物理学分野の研究者になりたいと、より具体的な夢を思い描くようになりました。その後、物理学専攻に入学して物理学をより広く、深く勉強することで、この物理学という謎とロマン溢れる学問に魅入られていきました。 私たちの身の回りにある物質を細かく分解していくと、それ以上分解できない「素粒子」と呼ばれる最小構成要素に辿り着きます。そして、これらの「素粒子」に働く力のメカニズムは「標準模型」と呼ばれる理論体系によって記述されています。「標準模型」は2012年に「ヒッグス粒子」と呼ばれる素粒子が発見されたことにより完成を迎え、数多くの物理現象を正確に記述することが実験的に確認されました。しかし、宇宙に存在すると考えられる物質やエネルギーのうち、この「標準模型」で説明できるのはたったの5 %です。そのため、私たちは「標準模型」を超える、より根源的な理論体系の証拠を探索しなければなりません。 私は現在、神戸大学の粒子物理学研究室で最先端の国際共同実験に携わっています。同じ研究室の仲間たちはもちろん他の大学、海外の研究者たちと共に新物理の証拠となる物理現象を探索しています。研究には決まった答えがあるわけではなく大変なことが多いですが、自分の経験や知識を活用して最善を尽くすという部分に楽しみがあります。また、問題などが起きた時に「何故そうなったか」を深く考えて理解することで、新たな問題に直面した時に、問題解決能力の成長が実感できるというのも、研究をより楽しむことができる理由です。私は研究者としてはまだまだ青二才で、勉強しなければならないことが多くありますが、父という偉大な素粒子物理学研究者を追いかけてこの神戸大学で研究に励んでいます。 この冊子の物理学科在校生・卒業生からのメッセージをご覧になられている皆さんの中にも、私と同じように明確な目標を持っている方や、まだ現段階ではそうでない方がいらっしゃることかと思われます。自分の目指す先が明確でない方にとっても、この神戸大学物理学科では上で述べたような素粒子実験分野の研究以外にも幅広い研究を扱っているため、授業や学生実験を通してきっと好きになれる研究分野が見つけられると思います。また、物理学を通して培われる論理的思考力や問題解決能力などは、物理学を離れた分野においても大いに活躍すると考えています。高橋 真斗(2022年度 博士前期課程修了)現在 博士後期課程2年最近発展のめざましいインターネットやコンピュータなどのテクノロジーも、そのおおもとの基盤は物理学にあります。ですから物理の基礎をしっかり学んでおくことは、社会に出てからも大変有益であるといえるでしょう。また物理学はものごとをその根源にさかのぼって理解しようとする学問です。物理学科の講義や演習・実験を通じて、どんなことでも自分でじっくり考え、確かめていく習慣をつけることは将来どのような進路に進んでも必ず役にたつはずです。測定できなければ、物理ではありません。玉に光を 「あなたは大学でどんな研究をしていたの?」というのは、新入社員に振られがちな話題のひとつです。多分に漏れず、私も新入社員のときに何度もこの質問をされました。その際、私はいつも「玉に光を入れる研究です」と答えていたのですが、ほとんどの方が「意味わかんない(笑)」「怪しい(笑)」と笑ってくれたのでその後の会話も和やかに進んでいきました。しかし、ある方はこう言いました。「それは光学効果でレーザーの波長を調整したりするの?」 物理学は大学入学共通テストの科目にも選ばれるほど間口が広いにも関わらず、多くの学生に嫌厭されがちで、殊、基礎物理に関しては非常にコアでとっつきにくい学問です。数字で語られる現象は目に見えない難解なもので、実験を通じて現象を可視化しても、その意味を理解できるのはせいぜい当事者と、物理を生業とするごく一部の人たちだけ。その上、たとえ意味を理解してもらえたとしても、その現象が実社会とどう関わるのかを説明するのは至難の業です。学内発表会で研究発表をしたときに、他研究室の教授から「その研究は一体何の役に立つの?」と質問されたことをよく覚えています。就職活動の面接で面接官が「あなたの研究を当社でどう活かしますか?」とお決まりの質問をするのも渋るくらい、物理学は実社会と結びつきにくいものなのです。 しかし、それなら物理学は社会では何の役にも立たないのではないか、と言われれば、当然そんなわけがありません。私は物理とは一見縁遠いエネルギー業界の企業に勤めていますが、プラントや機器設計における機械的強度や放散熱量計算をはじめ、精製される流体の速度や圧力計算など、日常的に物理を使用しています。物理なくしてエネルギーを生み出すことはできないことを日々実感しています。 とはいえ、残念ながら「玉に光を入れる研究」が直接役に立った場面はいまだなく、「そうです、光学効果も使います。玉は光共振器になるのですが、内部で全反射を繰り返させて光を増幅させることで~」などと研究内容を説明したところで結局「よくわからない」と言われるのがオチです。しかしこの、よくわからないと言われがちな「玉に光を入れる研究」から生み出されたものがいつか、人知れず誰かの生活を変える日がくるかもしれません。私がかつて研究室の中で眺めていた現象が、いつか私の暮らしを支えるのかも。ひょっとすると、私でさえ気がつかないうちに。伊神 早紀(2021年度 博士前期課程修了)現在 ENEOS株式会社勤務物理学科で行っている研究やその意義を広く知ってもらうために、毎年サイエンスセミナーを開いています。さらに、高校生を対象とした模擬授業を実施しています。また、物理学科のホームページでも最新の研究成果を見ることができます。物理学科のホームページに各教員の電子メールアドレスがのっていますので利用して下さい。また、理学部では毎年夏休みに高校生を対象としたオープンキャンパスを実施していますので、その機会を利用することもできます(時期はホームページに掲載予定)。現代物理の根幹にあるのが量子力学物理学科・物理学専攻ホームページhttp://www.phys.sci.kobe-u.ac.jp/物理学科で学んだことは社会でどのように役立ちますか?物理学科で行われている研究の内容はどのようにして知ることができますか?物理学科の先生と直接コンタクトをとることはできますか?古典力学の授業風景物理学実験2の様子量子力学1の授業風景
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