数学科と数学専攻では、解析・構造・応用の 3 つの講座によって、現代数学の諸分野を幅広くカバーし、研究しています。純粋数学では代数学・幾何学・解析学、応用数学では確率論・計算数理・組み合わせ数理などの研究を行っています。 これらの分野を個別に専門的に研究するとともに、相互に有機的なつながりを見出すことで、分野の枠を超えた横断的な研究も行われています。・偏微分方程式とは 数学は主に代数・幾何・解析の三分野に大別され、私の専門である偏微分方程式論はそのうちの解析学に属しています。解析学とは微分積分に対する関数の振る舞いを研究する分野であり、偏微分とは一変数関数の微分を多変数に拡張したものです。速度が位置の時間微分で与えられるように、温度や密度、流体の流速といったある種の空間分布の各方向への変化率は空間偏微分によって与えられます。したがって、考えている分布対象を無限に小さい領域に分割し、各無限小領域内で物理的関係式を立てると、そこに自然に偏微分方程式が現れます。熱や音、光、水面波、地震波といった種々の波の伝わり方はすべて偏微分方程式によって記述され、それを解けば現実の伝わり方の様子を再現できます。偏微分方程式は理学・工学のあらゆる分野でモデル方程式を与え、応用上も重要な意味を持っています。・解析から幾何へ 私は特に曲がった空間内での偏微分方程式を研究しています。2 次元で言えば、曲面上を伝わる波はどのように曲がるか、といったものです。重力によって歪められた空間を伝わる光はその歪みに沿って曲がりますし、音波も、空気圧や空気密度が一様でない空間ではそれらが空間の歪みとして機能し、曲がります。より一般には、穴の空いた空間や複数の空間を切り貼りしてつなぎ合わせた空間なども興味の対象です。このようなおかしな空間では偏微分方程式の解も通常の平坦な空間とは異なる挙動を見せます。例えば、様々な形の太鼓の音について考えてみましょう。円形だけでなく三角形や四角形、穴の空いた太鼓やさらには球面状や浮き袋状の境界のない太鼓(?)などを考えます。これらは異なる音程を持ちますが、それは膜の振動を支配する偏微分方程式の解の性質が異なっているからです。すなわち空間の幾何が偏微分方程式の解に影響を及ぼしているのです。それならば、逆に偏微分方程式の解を調べることで空間の幾何情報を引き出すこともできるでしょう。太鼓の例で言えば、音を聞いて膜の形状がどこまでわかるか、という問題です。音だけからどの幾何学量がわかるでしょう?膜の表面積や境界の周長、穴の個数などが分かるかもしれません。あるいは、もし音から形状を完全には再現できないのであれば、違う形で同じ音をもつ太鼓は存在するのでしょうか? このように偏微分方程式という解析の問題も空間の幾何と密接な関係を持っています。解析と幾何が混じり合うとても魅力的な研究対象です。研究の特色研究トピックス曲がった空間を伝わる波伊藤 健一 教授関数解析教育研究分野
元のページ ../index.html#10