神戸大学 理学部・大学院理学研究科 2025
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磁気フラストレーションスーパーカミオカンデ検出器。アップグレード工事のために水を抜いた際、下から上部を覗いた時の写真。極低放射能分析技術:表面アルファ線イメージ分析装置の測定セットアップの様子。 上記のように、物理学専攻・物理学科では、物質の根源を追求する「素粒子物理学」と物質の形態・性質を研究する「物性物理学」を教育研究の 2 本柱に据えて、それぞれに理論分野と実験分野とを配しています。組織構成としては、理論物理学、粒子物理学、物性物理学の 3 講座から学科が構成されています。理論物理学講座(教育研究分野:素粒子宇宙理論、物性理論、量子物性論)では「素粒子・宇宙物理学」と「物性物理学」の理論的研究を行っています。粒子物理学講座(教育研究分野:粒子物理学)、物性物理学講座(教育研究分野:低温物性物理学、極限物性物理学、電子物性物理学)では、それぞれ「素粒子物理学」と「物性物理学」の実験的研究を行っています。研究の特色研究トピックス地下ニュートリノ実験で迫る宇宙物質起源の謎 宇宙初期に存在しなかった重元素はどのようにして生成・拡散されたのか?なぜ我々の宇宙では反物質は安定して存在せず物質だけが生き残ったのか?暗黒物質の正体は何か?我々の研究グループでは、このような宇宙物質根源の謎を「超新星ニュートリノ」など極めて稀な事象を探索し、解明を目指しています。 岐阜県の神岡地下実験施設でスーパーカミオカンデ(SK)を用いた宇宙ニュートリノ観測および技術開発研究を進めています。SK は 1000m 地下に建設された 50 万トンの超純水を用いた大型水チェレンコフ検出器です。SK は 1996 年から観測を開始し、ニュートリノ振動の発見に貢献してきました。さらに、宇宙誕生から今日までに生じた超新星爆発由来のニュートリノが時間をかけて今我々のもとへ定常的に飛来すると予言される「超新星背景ニュートリノ(DSNB)」を探索しています。DSNB 探索感度を改善するために SK に硫酸ガドリニウムを添加導入しました(SK-Gd)。SK-Gd の初期結果を報告し、これまでの純水フェイズ 10 年間の観測結果と同等の探索感度性能を示しました。現在も SK-Gd による観測を継続しています。 我々は、さらに大型な水チェレンコフ検出器であるハイパーカミオカンデ(HK)を建設しています。2027 年度に運転開始を計画し、DSNB探索の他に、物理法則である 4 つの相互作用を統一する理論の検証(陽子崩壊探索)、加速器ニュートリノを用いたニュートリノ振動 CP 対称性破れ検証などの物理実験を目指しています。 一方でこれらニュートリノ実験を含む地下実験の基礎を支える技術開発も取り組んでいます。地下実験では共通して極限まで不純物を除いた材料を用いて巨大な検出器を建設し、かつ安定した長期間観測が要求されています。そのために、材料純化手法の確立、分析装置の高感度化にこれまで取り組んでいます。一例として、材料自身がいくらキレイでも管理や加工によって表面が汚染される可能性があります。そのため、表面アルファ線放出量を測定することで材料表面ですら検査できる環境を整備しています。次世代実験にも目を向けて、さらなる研究を展開しています。希土類化合物における磁気フラストレーション 反強磁性体と呼ばれる化合物の中では、ある温度以下で磁気モーメントが反平行に整列します。これは、磁気モーメントの間に互いに反平行になろうとする相互作用が働いているためです。このような相互作用を持つ磁気モーメントが正三角形の頂点にあるとき、二つの磁気モーメントを反平行に整列させてしまうと、残りの頂点にある磁気モーメントは上下どちらを向いても一方の磁気モーメントと反平行になれません。これを磁気フラストレーションと呼びます。磁気フラストレーションがあると、磁気モーメントが絶対零度まで整列しないスピン液体と呼ばれる状態などの興味深い現象が現れることがあります。そのため、絶縁性の遷移金属化合物を主な対象として、磁気フラストレーションがもたらす現象の研究が盛んに行われて来ました。 我々は、電気伝導を示す希土類化合物を対象とした磁気フラストレーションの研究を進めています。希土類化合物の中では、磁気モーメントの基になる電子に加えて伝導電子も存在します。そのため伝導電子も磁気フラストレーションの影響を受けることで、より多彩な現象が現れると考えられていますが、研究対象になりうる希土類化合物はそれほど多くありません。そこで我々は、磁気モーメントが正三角形の頂点にあるような新しい希土類化合物を探索し、いくつかの化合物で磁気フラストレーションの効果を実証してきました。例えば、通常の金属であれば温度が下がるに従って電気抵抗は減少しますが、我々が見出した希土類化合物では磁気フラストレーションに起因する磁気モーメントの揺らぎによって伝導電子が散乱され、ある温度以下で電気抵抗が増加に転じることが明らかになりました。今後も新物質探索を推進し、磁気フラストレーションが希土類化合物にもたらす新しい現象を追究して行きます。伊藤 博士 講師粒子物理学教育研究分野松岡 英一 准教授電子物性物理学教育研究分野

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