まちに引力を力を大学に通うため、生まれ育った町を離れた。4月のキャンパスには、「出身どこ？」「わあ、近い」というやりとりがにぎやかに飛び交っていた。でも、私が地元の話を出すと皆「震災、大変だったね」「ご家族は大丈夫？」と真面目な顔になる。気遣ってくれているのだ。ひとりだけ、他の子と違う反応をしたクラスメイトがいた。「イワシの水族館がある町でしょ？ あそこのトマト大好きなの。うちでは毎年取り寄せてるよ」と、彼女は無邪気な笑顔を見せた。私はこのとき気付いた。ふるさとに「大好き」という言葉が向けられる瞬間を、自分がどれだけ待ち望んでいたかを。皆に愛される、訪れてもらえるまちを、この手でつくりたい。「旅が好き」と選んだ道の先に、私はもうひとつの目標を見つけた。まちに引力を。106
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