父の仕事の都合で、数年に一度は転校をしていた。どんな土地にもそれぞれの訛りがあり、自慢の祭りがある。クラスメイトが激しい山車のぶつかり合いや珍しい夜の神楽舞について誇らしげに話すのを聞くたび、地元という名のふるさとを持つ彼らをうらやましく思った。その気持ちに変化が訪れたのは、引っ越したばかりの茅ヶ崎で白装束の男たちが神輿を担いで海に入る浜降祭を見たときだ。神の恵みに感謝し、人々の安全を祈って海水でけがれを祓う。それは、小学生の頃に東北の海沿いの町で見た祭りによく似ていた。この国の海や大地を敬う心と、祈りの文化はつながっている。日本のすべてが、僕を育てたふるさとなのかもしれない。僕は、日本人としての自分の根幹を探り、学び始めた。故郷故郷は、自分自分の中にある。060
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