小学生の頃、運動会の地区対抗リレーに出たことがある。各学年から1人ずつ出場しなくてはならず、私の地区には私の他に6年生がいなかったからだ。「どうしよう、リレーなんかやったことないのに」と心配していると、担任の先生が放課後、バトンパスの練習に付き合ってくれた。後ろを見ずにバトンを受けるのは怖いので、私の足は止まってしまう。「こんなんじゃビリになっちゃう」と半泣きの私に先生は言った。「速く走れなくたっていいの。前の走者を信じて手を出せばうまくいくから」大会当日、合図を聞いて腕を伸ばした私の手の中に、先生の言った通りバトンはちゃんとやってきた。結果は5位だった。それでも私は晴れ晴れとしていた。あんなに緊張したのが嘘みたいだった。私もあの時の先生のように、誰かの心に自信を灯せる人間になりたい。その気持ちが、教壇を目指す私の出発点だ。速さより、大切なこと。090
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