國學院大學 入学案内 2023
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KOKUGAKUIN UNIV. 008  今の道に進まれたきっかけは何でしょうか?大学2年生の時に友達に誘われて、各家庭の庭に直径10㎝以上の木が何本あるかを地図に落としていくという樹木調査のアルバイトをしたんですよ。もともと海洋生物の調査で世界を巡りたかったのですが、そのアルバイトで初めて樹木や森も研究対象になりうることに気が付きました。加えて当時、1970年代後半は環境庁ができて間もない頃で、自然保護がブームになっていた時代でした。そんなこともあって、樹木を含めた自然を保護し、同時に自然を利用しながら進めるまちづくりを扱う研究室を選択して、今の自分の研究に至っています。  現在注目されている研究テーマは何でしょうか?三つあります。一つ目は、都市における公園や緑地から、その場所や地域の歴史あるいは自然の特徴を読み解き伝える方法についてです。東京を例にとると、東京湾沿岸は遠浅で、約60年前まで現在の埋立地では海苔の養殖をしていたとか、関東大震災の災禍を経て、防火を期待して下町にプラタナスの並木や公園樹を植えたので今も多いとか。そのような物語を公園緑地においてどの程度伝えられているのかを調査しています。二つ目は、国立公園において、自然資源を低下や、地域コミュニティの絆の弱体化を招くんですね。風景は、国立公園などで見る特別に素晴らしいものだけではなく、毎日皆さんが目にしているものこそ、風景なのです。地域と協働して保全・活用していく仕組みのモデルづくりについてです。公園内には原生自然もあれば里山もあり、守るためには少なからず費用がかかります。そこで、自然を守りつつ観光等で利活用していく仕組みを整え、自力でお金を得られるシステムを構築しましょうという研究です。三つ目は神社の立地や空間構成に見られる、地域コミュニティの拠点形成のための条件についてです。神社は地域の拠点として住民の交流の機会を提供するだけでなく、地域がどこからどこまでか、というまちの領域を意識させる役割も担っています。お祭りでお神輿の通る範囲は、まさにそれです。今後のまちづくりにおける拠点づくりのヒントを神社から学びます。  研究を通して目指しているものは何でしょうか?究極のところ、人々の暮らしやすさの追求ですね。自分がどこに生きて、どのような立場で、どのような歴史の上に立って存在するのか、といったアイデンティティの獲得を、観光まちづくりの観点から手助けする。産業社会、情報社会と、土地や現実から暮らしの遊離が進んできました。それをリアルな地面に引き戻して、「確かな自分」を回復させる一助になればというのが私の願いです。いよいよ始動した観光まちづくり学部でも、学生にはぜひ國學院大學ならではの豊富な史資料や知見を活かして、暮らしやすい未来のまちづくりにチャレンジしてほしいですね。土地の物語を読み解くための古地図森林環境学の観点から森と関わる面白さを伝える著書(共著)まちづくりで目指すものは?[特 集]本質を問い直し、未来をひらく、國學院の人々下村 彰男観光まちづくり学部 教授1978年、東京大学農学部林学科を卒業。2021年、國學院大學研究開発推進機構(新学部設置準備室)を経て、2022年、観光まちづくり学部教授に着任。日本の森林学者、造園学者、観光学者。元東京大学大学院教授。専門は森林科学系造園学のうち風景計画、観光・レクリエーション計画、リゾート計画。

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