KOKUGAKUIN UNIV. 006の発信によって万葉集や古典の応援団が増えてくれればと常に願っています。楽しくなければ学習は身に付かない、というのはオンライン授業でも同様で、90分ずっと単調な一人語りでは聴き手に届かない。これはちょっとした工夫ですが、話の合間にわざとベルや拍子木を鳴らすことで注意を引いています。オンライン授業で学生の注意喚起に使った拍子木 今の道に進まれた、万葉集の研究のきっかけは何でしょうか?はじまりは40年ほど前、私が國學院大學文学部文学科合格後に、高校の恩師が桜井満先生宛に推薦状を書いてくださったことから。高校までは歴史学を学びたいと思っていたこともあり、歴史学に近い万葉研究を選択して桜井先生に計12年間師事しました。万葉集の後に生まれた古今和歌集は、掲載する歌が洗練されて貴族のもののみになりましたが、万葉集は違います。美しい歌も、荒々しい歌も選り取り見取りで、まるで精白されておらず癖の強い黒砂糖の味わいにも似た魅力がありますね。 学生として、そして今は教授として國學古典の知識が無くても楽しめる著書の数々院大學と過ごされているわけですが、國學院大學はどのような場所だと感じられますか?國學院大學は、古典文化研究における日本で最も有力な研究センターだと思っています。図書館・博物館の質が素晴らしく、文学のみならず古代史・民俗学・神道のそれぞれの分野で学会をけん引している先生方も集っています。國學院の伝統、「日本の本質を問い直す」という建学の精神、徹底的に史資料を読み、フィールドワークを行うというカリキュラム体系の相乗効果で、古典文化研究の殿堂ができあがりました。ここで古典文化を学ぶ学生たちは、「自分が学んでいることは、この分野における最高峰・最先端の内容だ」と自信を持ってほしいですね。あとは何かに対し、好きだ、おもしろい、と感じた気持ちを大切にして、なぜ己はそれに惹かれたのかを考えることで研究の第一歩を踏み出してもらいたい。 古代の和歌だけでなく、現代の俳句や短歌、詩などにも触れていらっしゃるのでしょうか?もちろんです。歌人や作家の方とも広く交流があり、その方々に対して、創作のため 今後の研究の展望についてお聞かせください。この10年をかけて、万葉集の新しい注釈書を作っていきたいと考えています。一首一首の解釈の分かれ目になるところを探していき、該当の表現について誰がどのような説を唱えているかを調べ、どれを採用して注釈とするかを決めるという作業です。万葉学者であるからにはすでにそれぞれの歌に対して自分なりの解釈を持ってはいますが、それを大事にしつつも一旦公平な眼で他者の学説を読み返して判断し、決して独断にならないことが重要です。2021年11月から始めて、12月時点で全24巻4516首あるうちの30首ほどができました。注釈書を作りながら、そこで得られた成果を授業にもタイムリーに活かしていきたいと思います。の資料として研究成果を提供しています。昔の書を当時だけのものとして現代と切り離してしまわず、研究を常に最先端の状態に更新して発信することで、新しい時代の創作物・まだ見ぬ新説として拡がっていく。その現代への還元行為こそが令和を生きる万葉学者に与えられた使命です。上野 誠文学部 教授1984年、國學院大學文学部文学科を卒業。2021年、國學院大學文学部教授に着任。専門は、万葉文化論、芸能伝承論、折口信夫論、万葉■歌の史的研究、日本古代文学研究。主な近著に『万葉集の基礎知識』(共編著)、『教会と千歳■―日本文化、知恵の創造力―』がある。 [特 集]本質を問い直し、未来をひらく、國學院の人々
元のページ ../index.html#9