國學院大學文学部 ガイドブック 史学科
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Kokugakuin UniversityDepartmentof History18 教授佐藤 長門 日本時代史Ⅰ・Ⅱでは、古代天皇制がどのような変遷をたどっていったのかを中心に、前期のⅠでは8世紀を、後期のⅡでは9世紀から10世紀前半までを講義していきます。 みなさんが中学・高校で学んできた古代史をふり返ってみると、7世紀までの令制以前の段階においては蘇我氏などの、8世紀からの律令国家の時期においては藤原氏などの、氏族を主役にした歴史事象の説明や解釈がなされてきたのではないでしょうか。それは戦後の歴史教育が、戦前・戦中における極端な天皇中心の歴史観、いわゆる“皇国史観”にもとづく歴史教育の反省から出発したため、天皇と対比される存在として氏族に焦点をあてた歴史教育が実践されてきたからでした。このような氏族中心の歴史叙述は、中世以降の幕府政治をになった源氏・北条氏・足利氏・徳川氏などを基軸とする記載とも親和性をもち、また日本列島各地に勢力をはっていた地方豪族の掘り起こしにもつながり、権力者の物語だけではない新たな古代史像を“発見”するきっかけにもなった点で、評価すべき方向転換でありました。 ただここで忘れてはならないのは、好き嫌いは別にして、日本古代は“専制君主制”の時代であったということです。つまり当時の最終的な判断は蘇我氏でも藤原氏でもなく、天皇(大王)が下していたのであり、その姿を歴史の表舞台から隠してしまったのでは、正確な歴史解釈はできなくなってしまうのではないかと思われます。 國學院大學の史学科は、その創立当初から史料にもとづいて歴史を構築する“実証史学”を標榜してきました。日本古代の史料には、天皇や氏族はどのように描かれているのでしょうか。それは、みなさんが中学・高校で習ってきた教科書的な古代史と、はたして同じなのでしょうか、あるいは違うのでしょうか。日本時代史Ⅰ・Ⅱでは、以上のような問題関心のもと、戦前・戦中におこなわれた天皇中心史観でも、戦後一貫して続いている氏族中心史観でもない、“実証史学”にもとづくニュートラルな立場から、古代天皇制の歴史を分析する実験をおこなっています。この試みが成功しているのか否かについては、ぜひみなさん自身の眼で確かめてみてください。左:「御即位図」(國學院大學博物館所蔵)右上:『続日本後紀』巻五(國學院大學図書館所蔵)右下:京都御所 紫宸殿“実証史学”の立場から、古代天皇制の歴史を分析してみよう。□□□□□□

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