國學院大學文学部 ガイドブック 史学科
2/32

最近「チ」というアニメを観ています。主人公が三2史学科代表吉岡 孝 教授(日本史学コース)話目で死ぬのには驚きましたが、このアニメの本当の主人公は地動説です。地動説を信じる無名の人々が、これを証明しようと苦闘する姿が描かれます。  地動説を証明しようという人々の共通の敵は天動説です。これを唱えた古代ギリシアの天文学者プトレマイオスには当然批判的です。でも彼らはプトレマイオスの主張をよく知っています。たとえ自分と対立する意見でも、いや、対立する意見だからこそ、彼らは真剣に学んでいます。  そしてこのアニメでは観測データを入手するくだりが、ドラマを盛り上げます。現実世界では最初にコペルニクス(1473〜1543)の地動説を支持した人物はケプラー(1571〜1630)ですが、彼が地動説を信じたのは、稀代の天体観測名人ティコ・ブラーエ(1546〜1601)の膨大かつ正確な天文観測データをみていたからです。データ、歴史学でいえば資史料を広く把握することは重要です。  しかし論文を正しく理解し、データを広く集めても、それだけでは学問はダメです。データには限界があり、どうしても当時の理論によって都合良く解釈されます。このことは難しい言葉を使うと「観測の理論負荷性」といいます。  西洋中世では宇宙の理解はキリスト教と深く結びつき、地動説を唱えれば火あぶりです。そのため天動説は理論的にも、観測データからも矛盾はないとされ、研究者にも「同調圧力」がかかりました。  アニメ「チ」の最大の見せ場は、そのような「同調圧力」に抗して、自分が正しいと思ったことを、命がけで主張するところです。現実世界でも地動説を唱えた罪で異端審問にかけられたガリレオ(1564〜1642)が、誓約書に署名しながら「それでも地球は動く」といった話は有名です。まあ、この逸話は嘘ですが(笑)。  でも他人が正しいと思っていることに異議を唱えることは難しいことです。でもそうしないと世界は進歩しない。なによりも必要なのは勇気です。  もしあなたが自分とは意見の異なる人の考えを知ることに意義を感じ、直接的な関心とは関係のないデータを広く集めることに意味を見いだし、世界を変えようという勇気が大切だと思うのなら、ぜひ歴史学を学んで下さい。  なぜなら歴史学は過去の世界を研究するからです。現存する世界を考察することは他の学問でもできます。しかし失われた世界については歴史学しか考察できません。でも現在の世界が正しく、過去の世界が誤っていると、なぜいえるのでしょうか。それは天動説が支配的な世界で、地動説が誤りとされていたことと同じではないでしょうか。  國學院大學の史学科には四つのコースが用意されています。日本史学・外国史学・考古学・地域文化と景観です。各コースでは論文の正確な理解はもとより、古文書や古記録、英文や漢文、出土遺物や遺跡の図面、古絵図や地誌など、さまざまな資史料を研究していきます。そして最後には卒業論文を執筆します。ここでは思う存分、自分が正しいと思った学説を、資史料を用いて、勇気をもって実証しましょう。  史学科が大学や研究機関の研究者、中高の教員や学芸員を多く輩出してきたことは周知のことです。しかし卒業生の多くは一般企業や公共団体に就職します。関連した文献を正確に読み、多くの資史料をもって実証し、勇気をもって自説を主張することは研究者には絶対に必要ですが、社会人にもそうなのです。近年では公共団体はもとより、企業においても、倫理性が要請されます。ただその具体的なあり方は、歴史によって形成された文化によって異なります。多様な世界を理解する上で歴史学は実用的です。 國學院大學史学科って、こんなところ!

元のページ  ../index.html#2

このブックを見る